重力の呪いのせいで僕もクタクタだったけど、休憩時のポーターは忙しくなる。

「おい、ウスノロ、さっさとお茶を淹れろ」

 ピルモアがぞんざいに命令してきた。このような場合、当然のようにポーターのお茶はない。戦闘ができない者にそんな贅沢は許されないのだ。もしも僕がリーダーだったらそんな不公平はしないのにな……。戦闘要員だってポーターだって、全員が同じチームの仲間だと思う。東北のマタギは新人であろうがベテランだろうが利益を均等に分けたそうだ。元日本人としてはその精神を見習いたい。

 出来上がったお茶をリタのところにも運んだ。

「はい、ミントティーだよ。熱いから気を付けて」

「ありがとう。セラの分は?」

「ピルモアのチームではポーターの分は出ないよ」

「そう……」

 立ち去ろうとする僕の腕をリタが引っ張った。

「セラも座って少し休みなよ」

 リタはポンポンと自分の隣を手でたたく。ここに座れってこと? お茶も全員に配ったしやることはない。僕は言われたとおりにリタの横に座った。

「ほら、これをどうぞ」

 リタは自分のカップを僕に手渡してきた。

「でも……」

「子どもが遠慮しないの。ここからはさらに緊張が続くはずだよ。生き残りたかったら、少しでも栄養をつけておいた方がいい。いざというときは全力で走って逃げるんだよ」

 リタにもらったミントティーは砂糖がたくさん入っていて甘かった。甘いものを飲むだなんて久しぶりだ。エルドラハで砂糖は貴重品だから、滅多に口にできない。

「ありがとう、リタ。でも、どうしてこんなに親切にしてくれるの?」

「それは……ひとめぼれ?」

「お米ですか?」

「はっ?」

「ごめん、なんでもない」

 異世界ジョークは通じない。

「って言うのは冗談で、借りを返すために決まっているじゃない」

「借りって何のこと?」

「憶えてないの。私は二年前にセラに助けられているんだよ。魔物に後ろから襲われた時にポーターだったセラが身を挺してかばってくれたの。こんなに小さな子なのに勇気があるんだなって、感心したんだぞ」

「うーん……ぜんぜん覚えてない」

 二年前となると今より重力の呪いがひどくない頃だ。まだ、体が動いたんだろうな。

「ある意味でひとめぼれは間違いじゃないかもね。あの時のセラは子どものくせに、すっごくカッコよかった」