「つまり、グランベル王国も帝国も人々の暮らしより、魔結晶を優先したっていうの!?」

「その通りだ」

 もともとエルドラハに来るのは魔結晶をとる労働者だけだった。時代が下がって帝国の支配下に置かれた今では、住民は同時に囚人だ。権力者はそんな場所の環境をよくしようとは考えないのだろう。腹が立つけど想像はつく。

「それらのことを踏まえてセラに質問がある」

 メリッサはいつになくソワソワとして落ち着きがない。何か心配事でもあるのかな? 僕は急かすことなくメリッサの言葉を待った。

「セラの夢は飛空艇に乗ってエルドラハから出ていくことだったな?」

「うん。それが僕の小さいころからの夢だよ」

「では、もし聖杯を手に入れたら、セラはそれを帝国に差し出すか?」

 メリッサの心配はそれか……。

「メリッサはデザートフォーミングマシンを動かしたいんだね?」

 メリッサは決然とした顔つきで頷いた。

「聖杯とは巨大な高純度魔結晶のことだ。利用価値が高いので誰もが欲しがっている。手に入れれば間違いなく帝国市民権を得られるだろう」

 その代わりエルドラハは今まで通りか……。頭の中に近所の人々の顔が浮かんだ。嫌な奴もいっぱいいたけど、僕を助けてくれた人もいっぱいいた。死と隣り合わせの生活だったけど、人生を諦めたくなるほど最悪な場所でもなかった。

「もしセラが聖杯を使ってデザートフォーミングマシンを起動させるのなら、聖杯の間の場所を教える。黒い刃はセラに全面的に協力する。私も……」

 何かを言いかけてメリッサは言葉を飲み込んだ。そして今度は胸が痛むかのよう、苦しそうに言葉を吐き出す。

「だが、セラが帝国に聖杯を差し出すのなら……、私たちの関係はこれまでだ」

 メリッサは責任感の強い人だ。ここには旧グランベル王国の領民もたくさんいる。その人たちを差し置いて、自分だけ楽な生活を送るなんてことはできないのだろう。

 僕も決めなくてはならない。自分の夢を実現させるか、人々の生活を優先させるかを。旧グランベル王国伯爵家の跡取りだなんて関係ない。これはセラ・ノキア個人の問題だ。

「メリッサ……デザートフォーミングマシンを動かそう」

「……本当に?」

「うん、そっちの方が楽しそうだもん」

「よかった……」