僕は目の前の光景につぶやいてしまう。部屋の中はびっしりと機械で埋め尽くされていたのだ。特に部屋の中心にある設備は大きく、天井に届かんばかりだ。しかもその機械は地下深くまで続いていて全貌はよくわからない。

「こっち」

 メリッサは機械の横につけられた階段を下りていく。ブーツの底が階段に当たって高い金属音を鳴らした。

 五〇段もある階段を下り切ると制御室のような場所になっていた。メリッサが僕を見つめながら尋ねてくる。

「セラならこの機械がどういうものかわかるんじゃない? 教えてほしい」

「わかった……」



 スキル『スキャン発動』

 対象:デザートフォーミングマシン 地下水脈から水を汲み上げ土魔法の力で土壌改良もする。範囲地域はマシンを中心として半径二〇キロメートル。

 起動エネルギーとして聖杯を必要とする。



 デザートフォーミングマシンとは砂漠を人の住める地域にするための物か。僕はメリッサにありのままを説明した。

「やはりそうだったか……」

「やはりって、メリッサはここのことを知っていたの」

「少しだけ。もともとここはグランベル王国の土地だったから」

「この機械はグランベル王国がつくったの?」

 メリッサは首を横に振った。

「そんな技術を持つ国はどこにもない。ここを作ったのはおそらく古代人だろう」

 そういえば迷宮は古代遺跡だという人もいたな。

「エルドラハが見つかったのも偶然だったのだ。飛空艇の事故による不時着陸が原因だった」

 調査隊が入って魔結晶が採取できることが分かり、この街が作られた。そして戦争が起こりグランベルは敗戦。エルドラハは帝国の所有となった。

「メリッサが知っているってことは、グランベル王国はデザートフォーミングマシンのことを知っていたんだよね」

「ああ、そうだ。おそらく帝国も知っている」

「だったらなんでこれを使おうとしなかったのかな?」

「理由は二つだ。一つは聖杯を守るゴーレム集団が強力すぎたから。昨日私も戦ったが、無理をすれば黒い刃が全滅するところだった。聖杯の間からでてこないから助かったがな」

「もう一つは?」

 そう訊くとメリッサは力なくため息をついた。

「あの機械は迷宮内の魔素を利用するらしい。もしもあれを動かせば魔結晶の採取率は三〇%ほど減少すると言われているのだ」