選挙結果発表前夜。
僕は、かたずを飲んでスタッフの動向を見張っていた。
ここはアルカディア。王政の国である。
王がそれをとりやめ、民衆が国政をつかさどる国体にしたい、と言い出した。
王は、飽きたのだ。崇められることに。
民衆はもともと王一族を尊敬し、政務を王が行うことを当たり前のように、委ねていた。
そして、今は隣国ノームが攻めてくるか、攻めて来ないか、一触即発のとき。
そんなとき、王がやめると言ったものだから、民衆は混乱した。
「選挙をやる」
王は国民の動揺を見て、一方的に決めるのではなく、民意をくむ、と、そう、のたまった。
僕はちょうどその時、他国の選挙システムの視察から帰ったばかりだった。
僕の研究テーマは、いかに選挙の不正を防ぐか。
他国ではアルカディアなんかより不正が多い。
そのため、不正防止の策をいろいろ講じているものだから、その視察から帰ったばかりだった。
それから僕は選挙管理委員会のスタッフ長として、違法操作をする者からクリーンな選挙を守るために、四苦八苦することになる。
まず、投票用紙の偽造。
これは隣国アストラの協力をこぎつけ、用紙に特殊なホログラフを埋め込み、投票会場でスキャンして正規のものだと証明することで、防いだ。
偽造犯は、1万人以上にのぼった。
すべて、国王から金をもらって用紙を印刷したりしたことは明らかだった。
ことを公にしないため(さすがに王を逮捕するのが憚られた)、犯人を罰金だけで釈放した。
ただ、資金が潤沢過ぎた。これは、隣国が我が国に干渉するため、王に協力していることが闇の諜報室から報告された。
……国王は、本気だ。本気で王政をやめたがっている。
僕ら選挙スタッフは、身震いがした。
王がいなくなったら、僕らはどうなるのだ?
次に起こった不正は、開票現場での票の差し替え。
開票委員は選挙管理委員会のスタッフと、身元が明らかなアルバイトだ。
この両方のメンバーが買収され、箱ごとすり替えられたり、民衆政治の反対票が闇に葬られたりと、現場は混乱した。
ここでも外国から金をもらった奴らが妨害してきたのだ。
あらかじめ予想された動きだったから、監視員をよけいにつけていた。
けれど、監視員と奴らがもみあいになり、開票現場がむちゃくちゃになったところもあった。
そういうところは票を一から数え直しだったから、発表が数日ずれこんだ。
そしてとうとう、発表を控えた、前夜。
開票作業はあと少しで終わる。これまでの票の結果は、僕と、委員長だけが知っている。
そして入力ブースでいままでの数字を打ち込むスタッフの手元を見ると、震えている。
もしや、こいつ……?
汗だくになり、僕が知る数字と違う数字をひとつ打ち込むのを見て、僕は直感した。
こいつ、王政がとりやめになる数字を打ち込むつもりだ……!
「おい、やめろ!そこまでだ!」
僕は叫ぶ。
急いで足をブースに進め……と、その前に、四方八方からの手につかまる。
「おい、なんだ!離せ!」
「すまん、ジョゼ!諦めてくれ」
「陛下のご意向なんだ!」
やめろ~!と叫ぶ僕のあがきもむなしく、王政廃止賛成多数の数字がそのまま打ち込まれ、全国に配信された。
ちなみに実際は廃止賛成は少なく、ほんとうならこのまま王政が続く民意だったのだ。
すまきにされスタッフルームに転がされていた僕は、翌朝、一人涙した。
王政がなくなる。そうなると、国民は……。
その日から、武装した国民が束となり、隣の国々に略奪行為を働き出した。
敵対していた隣国ノームどころか、ほかの7カ国の隣接する国々に攻め入り始めた。
もともとノームに悩まされていた国々は、さらにアルカディアという最凶の虎を揺り起こしてしまった、と後悔する。
国王がいない、見本となる者のいなくなったアルカディア。
千年前のときと同じく、山賊国家になり、将軍を生み、英雄がときをあげ、遠征に遠征をかさね、大帝国を築いたのだった。
僕は、かたずを飲んでスタッフの動向を見張っていた。
ここはアルカディア。王政の国である。
王がそれをとりやめ、民衆が国政をつかさどる国体にしたい、と言い出した。
王は、飽きたのだ。崇められることに。
民衆はもともと王一族を尊敬し、政務を王が行うことを当たり前のように、委ねていた。
そして、今は隣国ノームが攻めてくるか、攻めて来ないか、一触即発のとき。
そんなとき、王がやめると言ったものだから、民衆は混乱した。
「選挙をやる」
王は国民の動揺を見て、一方的に決めるのではなく、民意をくむ、と、そう、のたまった。
僕はちょうどその時、他国の選挙システムの視察から帰ったばかりだった。
僕の研究テーマは、いかに選挙の不正を防ぐか。
他国ではアルカディアなんかより不正が多い。
そのため、不正防止の策をいろいろ講じているものだから、その視察から帰ったばかりだった。
それから僕は選挙管理委員会のスタッフ長として、違法操作をする者からクリーンな選挙を守るために、四苦八苦することになる。
まず、投票用紙の偽造。
これは隣国アストラの協力をこぎつけ、用紙に特殊なホログラフを埋め込み、投票会場でスキャンして正規のものだと証明することで、防いだ。
偽造犯は、1万人以上にのぼった。
すべて、国王から金をもらって用紙を印刷したりしたことは明らかだった。
ことを公にしないため(さすがに王を逮捕するのが憚られた)、犯人を罰金だけで釈放した。
ただ、資金が潤沢過ぎた。これは、隣国が我が国に干渉するため、王に協力していることが闇の諜報室から報告された。
……国王は、本気だ。本気で王政をやめたがっている。
僕ら選挙スタッフは、身震いがした。
王がいなくなったら、僕らはどうなるのだ?
次に起こった不正は、開票現場での票の差し替え。
開票委員は選挙管理委員会のスタッフと、身元が明らかなアルバイトだ。
この両方のメンバーが買収され、箱ごとすり替えられたり、民衆政治の反対票が闇に葬られたりと、現場は混乱した。
ここでも外国から金をもらった奴らが妨害してきたのだ。
あらかじめ予想された動きだったから、監視員をよけいにつけていた。
けれど、監視員と奴らがもみあいになり、開票現場がむちゃくちゃになったところもあった。
そういうところは票を一から数え直しだったから、発表が数日ずれこんだ。
そしてとうとう、発表を控えた、前夜。
開票作業はあと少しで終わる。これまでの票の結果は、僕と、委員長だけが知っている。
そして入力ブースでいままでの数字を打ち込むスタッフの手元を見ると、震えている。
もしや、こいつ……?
汗だくになり、僕が知る数字と違う数字をひとつ打ち込むのを見て、僕は直感した。
こいつ、王政がとりやめになる数字を打ち込むつもりだ……!
「おい、やめろ!そこまでだ!」
僕は叫ぶ。
急いで足をブースに進め……と、その前に、四方八方からの手につかまる。
「おい、なんだ!離せ!」
「すまん、ジョゼ!諦めてくれ」
「陛下のご意向なんだ!」
やめろ~!と叫ぶ僕のあがきもむなしく、王政廃止賛成多数の数字がそのまま打ち込まれ、全国に配信された。
ちなみに実際は廃止賛成は少なく、ほんとうならこのまま王政が続く民意だったのだ。
すまきにされスタッフルームに転がされていた僕は、翌朝、一人涙した。
王政がなくなる。そうなると、国民は……。
その日から、武装した国民が束となり、隣の国々に略奪行為を働き出した。
敵対していた隣国ノームどころか、ほかの7カ国の隣接する国々に攻め入り始めた。
もともとノームに悩まされていた国々は、さらにアルカディアという最凶の虎を揺り起こしてしまった、と後悔する。
国王がいない、見本となる者のいなくなったアルカディア。
千年前のときと同じく、山賊国家になり、将軍を生み、英雄がときをあげ、遠征に遠征をかさね、大帝国を築いたのだった。