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「おかえり、葉ちゃん」

 家に帰ると、仁美は思っていたよりも機嫌良く僕を迎え入れてくれた。

「ちょうど今、ごはんを温めなおしたところなの。早く着替えてきて」
「わかった」

 リビングから顔を覗かせた仁美に頷くと、彼女が僕の夕飯の準備をするためにキッチンへと消えていく。
 着替えを済ませてリビングに戻ると、食卓の上に僕の分の夕食が並べられていた。

「おいしそう。いただきます」

 席に座って手を合わせると、仁美が僕の向かい側に座った。テーブルに肘をついて、僕の食事風景をにこにこと見守る仁美は、帰宅が遅かった僕に何度も電話をかけてきたことなんてすっかり忘れてしまっているようだ。

 日によっては、眠る直前まで僕が約束の時間を守らなかったことを引きずっていることもあるが、今夜は僕が帰宅するまでの三十分間に何か気分が変わるようなことでもあったのだろう。

「今日は一日、どうだった?」

 一日の終わりに、僕は必ずそうやって、仁美に困ったことや変わったことが起きていないかさりげなく確かめる。

「今日はね、隣町の大型スーパーの特売日だったから、少し足を伸ばしてそっちまで行ってみたの」
「そうなんだ」

 笑顔で話す仁美に相槌を打ちながら、僕は今日も、彼女が平穏な一日を過ごせたことを知る。