僕と《妻》の仁美の関係性は実は少しだけ複雑で、うまく説明するのが難しい。ただ明確に言えるのは、僕たちが夫婦でいるために、いくつかのルールがあるということ。
細かく言い出せばキリがないのだが、ざっと纏めればこんな感じだ。
その1 《妻》からのメッセージには迅速に対応すること。
その2 帰宅する前には、必ず電話を入れること。
その3 約束の時間は守ること。
その4 目覚めたときと眠る前に「ずっとそばにいる」と伝えること。
その5 《妻》を不安にさせないこと。
その6 《妻》がどんなに辻褄の合わないことを言っても、受容すること。
それから、もうひとつ。僕たちにとって一番重要だとも言えるルールがある。
それは、どんなことがあっても《妻》を愛しているフリをすること。
何も知らない人が聞けば、僕が恐妻の仁美に尻に敷かれているようにも思われそうだが、このルールがなければ、そもそも僕たちの関係は成り立たない。
それくらい、僕らの結び付きは不安定でいびつで脆いのだ。