ときどき、ふと目を覚ました瞬間に、意識がクリアーになって。《あのひと》の不在を悟って、死にたくなるほど絶望的な気持ちになる。
 だけどそんなとき、隣に彼の温もりを感じるとほっとするのだ。
 彼は《あのひと》とは違うのに。境界線が曖昧になる。

 優しい彼は、私を一番優先してくれる。
 不安になって、仕事の帰りが遅くなった彼にしつこく電話をかけても怒ったりしないし、私が求めれば抱きしめてくれる。

 だけど、私がどれほど無茶苦茶でも「ずっとそばにいる」と愛を伝えてくれていた彼が、この頃とても哀しい目をしている。
 気付かないフリをして誤魔化しているけれど、そろそろ私のことが重荷になっているのかもしれない。
 私から解放されたいと思っているのかもしれない。
 
 でも……、ずるい私は、もう彼の手を離せない。