「葉ちゃんも言って。好きだ、って」
ベッドに組み敷いた仁美の唇を奪う寸前、彼女が甘えた声で僕に強請る。
「好きだよ」
目を伏せながらつぶやくと、僕よりも先に仁美のほうから唇を重ね合わせてきた。
「葉ちゃん、愛してる。ずっと、私のそばにいて……」
「そばにいるよ、ずっと」
縋り付いてくる仁美を抱き寄せて囁く僕の胸に、切なさと虚しさが同時に押し寄せてくる。
仁美が毎日のように僕に「そばにいて」と確かめるのは、心のどこかに大切な人を亡くしたときの哀しみや絶望を覚えているからだ。
「そばにいて」という仁美の言葉は、もう二度と彼女が大切なものを失わないための予防線。
仁美が今も愛しているのは、僕の兄の葉一。こんなふうに抱きしめてもらいたいのも、愛の言葉を囁いてほしいのも、キスして肌を重ねたいのも、本当は僕じゃない。
僕と仁美の関係が成り立つのは、決められたルールの中でだけ。仁美が、僕を葉一だと思い込んでいるあいだだけ。そのはずだったのに……。
「愛してる……」
仁美に向かって本気でそんな言葉を紡ぎながら、致命的だと思った。
気付けば、僕は仁美を愛してる。
仁美が見つめているのはいつだって、僕の向こうにいる兄の姿なのに。