事故や葉一の死について忘れてしまっている仁美は、自分が定期的に検査やカウンセリングを受けている理由を曖昧にしか理解していない。

「健康診断って、病気じゃなくても受けるでしょ。仁美がこうして定期的に受けてる診察は、健康診断みたいなもんなんだよ」
「ふーん」

 不満そうに口をへの字に曲げている仁美の顔は可愛いけれど、病院に通わなければいけない理由をこれ以上深く追求されたくはない。
 繋いだ手をグイッと引っ張って仁美を引き寄せると、彼女の顔を覗き込んでにこりと笑いかけた。

「このまま、お昼ご飯食べて帰ろうか」
「賛成。ついでに、映画デートしようよ」

 僕を見上げて子どもみたいに笑った仁美を見つめて、堪えるようにぎゅっと唇を噛む。

「葉ちゃん? 映画な気分じゃなかった?」

 笑顔から一転して、不安そうな表情を浮かべる仁美。そんな彼女を、僕は人目も憚らず、衝動のままに抱きしめた。

「葉ちゃん、どうしたの?」

 驚く彼女の肩口に額を押し付けながら、何度も首を横に振る。