「いえ、気になることはありません。彼女は今も僕のことを夫の葉一だと思いこんで生活を送っています」
医師の顔を真っ直ぐに見つめてそう答えると、彼が残念そうに眉尻をさげた。
「そうですか……。先ほどもお伝えしたとおり、検査の結果に異常は見られません。これまでどおり、次回の診察まで経過をみてください。もし気になることがあれば、次の診察まで待たずにいつでも連絡をくださいね」
「はい、わかりました」
医師が穏やかな声で淡々と、いつもどおりの説明をしてくれる。
誕生日のことを話さなかったことで、少し気が咎めたが、仁美の検査とカウンセリングが何の改善もなく終わったことに、僕は心の底からほっとしていた。
病院を出て駐車場に向かって歩く途中、半歩後ろを歩いていた仁美が、僕の手をとって強く握りしめてきた。
「ねぇ、葉ちゃん。私、いつまでこんなふうに病院に来ないといけないの? 何も悪いところなんてないのに」
握った手をぶんぶんと前後に乱暴に揺らす仁美を振り返ると、彼女がなんだか不貞腐れた顔をしていた。