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 事故や兄の死に関する記憶を失くしてしまってから、仁美は病院で定期に検査とカウンセリングを受けている。
 仁美を担当してくれている医師は、僕に結果を見せながら、「今回も特に変わりはなさそうですね」と穏やかに微笑んだ。

 医師から仁美の検査結果の報告をされる瞬間、僕はいつも緊張して、少しだけ肩に力が入る。
 いつ、仁美の記憶に改善が見られると言われるかわからないからだ。

「変わり、なし……ですか?」

 ゆっくりと言葉を溜めながら確認すると、僕の様子をいぶかしく思ったのか、医師が僅かに首を傾げた。

「最近の生活で、何か気になることでもありましたか? 仁美さんが、記憶を思い出したような気配があったとか」

 慎重に問いかけてくる医師からは、笑顔が消えていた。仁美を三年担当してくれている医師からは、一緒に生活していて変化があれば、些細なことでも教えてほしいと言われている。

 仁美の記憶に関して、気になることが全くないわけではなかった。
 頭の中で少しだけ引っかかっているのは、今年に限って、仁美が僕の――、原 蓮二の本当の誕生日を祝ってくれたことだ。
 身分証や正式書類には僕の本当の生年月日が書かれているから、仁美がそこで僕の誕生日を知り得ることは可能だけれど。それを祝ってくれたのは、偶然なのか、それとも彼女が何かを思い出したからなのか――……。

 もしそれが、彼女が何かを思い出したせいなのだとすれば、僕らの関係は破綻する。

 太腿の上にのせた手を、ぎゅっと握りしめる。