「朝ごはん、作ってくれたんだよね。冷めないうちに起きて食べようか」
ベッドから立ち上がろうとすると、仁美が寝転んだまま僕の腕を強く引っ張る。
「あとでいい。もう少しこうしてよう」
仰向けに転がる仁美の上に重なるように倒れてしまった僕は、彼女に体重がかからないように、手をついて上半身を少し浮かせた。
仁美は僕より三つ年上だが、目が大きくて童顔な彼女は、メイクをしていないと僕よりも年下に見える。
上目遣いに見上げてくる彼女の表情は、とても可愛かった。
仁美のことは、初めて兄の婚約者として紹介されたときから見た目の可愛い人だと思っていた。そのときに仁美に感じた「可愛い」は、客観的に見て。
だけど、今、目の前で無防備な表情を見せる彼女に感じる「可愛い」は、完全に主観的に見て。
仁美と暮らした三年の間に、僕は彼女に情が湧いてる。
「葉ちゃん?」
仁美が黙り込んでしまった僕の頬に手を伸ばしながら、不思議そうに首を傾げた。頬に触れた仁美の手を上から優しく包み込んで、彼女の手のひらに唇を押し付ける。
「ずっと、そばにいる」
「うん、いてね」
僕の言葉に頷きながら、仁美がくすぐったそうに笑う。彼女の笑顔を見つめる僕の胸は、少し痛くて、苦しかった。