何度も肩を揺すられて目を開けると、眉尻を下げた仁美が真上から僕の顔を覗き込んできた。

「葉ちゃん、起きて。仕事遅れちゃう」

 仁美が焦った声でそう言いながら、ベッドサイドの置き時計をつかんで見せてくる。その時間は、既にいつもの起床時間を三十分以上も過ぎていた。
 ヤバいと思ってバッと起き上がったが、すぐに焦る必要はないことに気がつく。

「いや、大丈夫だよ。今日は仁美の病院の日だから、休み取ってる」
「あ、そうか。今日、病院……。何時からだっけ?」
「十一時。一時間前に出れば間に合うよ」
「そっか。じゃぁ、早起きして朝ごはん作らなくてもよかったんだ」

 仁美がほっと息を吐きながら、僕の隣にぽすっと倒れ込んでくる。

「ごめん。昨日の夜、確認しておけばよかったね」

 手に触れた仁美の髪をそっと撫でると、彼女が僕のほうにすり寄ってきた。

「時間があるなら、もう少し一緒に寝てればよかったな」

 僕の胸元に顔を埋める仁美の髪から、花のような甘い香りがする。無防備に甘えてくる彼女を抱きすくめて、シーツの上に押し付けたい。そんな衝動をギリギリのところで堪えると、手のひらを押し付けるようにして、仁美の艶やかな後ろ髪を撫でた。