「だって、葉ちゃんとくっついて寝ると、体があったまって安眠できるんだもん」
「僕のこと、湯たんぽと勘違いしてる?」

 ジトッと仁美を見下ろすと、彼女が機嫌良さそうに笑いながら僕に顔を近付けてきた。

「お誕生日おめでとう。これからも、ずっとそばにいてくれる?」

 僕の唇にキスした仁美が、ほんの少し目を潤ませながらいつものように訊ねてくる。

「ずっとそばにいるよ」

 いつしか口にするのがあたりまえになっている言葉を吐き出しながら、仁美の細い背中を抱きしめた。

「ありがとう。大好きだよ……」

 僕の腕の中でつぶやいた仁美は、そのとき、僕のことを「葉ちゃん」と呼ばなかった。
 仁美からしてみれば特に意味のないことだったのだろうけど、兄としてではなく、僕自身が「好き」だと言ってもらえたような気がして、胸がざわめく。

「僕も仁美のことが大好きだよ」

 一緒に暮らし始めたばかりの頃は、ただ機械的に答えていただけのはずの言葉に感情がのる。だけど、そのことにはまだ気付きたくない。

 仁美が突然、僕の誕生日を兄の誕生日だと勘違いして祝ってくれた理由にも。この感情の意味にも。僕らはまだ、気付いちゃいけない。