「何言ってるの? おかしな葉ちゃん。そんなにびっくりした? 私のサプライズ」

 悪戯っぽく笑った仁美は、今までと変わらない目で僕のことを見ていた。兄の葉一を見ていたときのような、少し甘えるような柔らかな眼差しで。そのことを淋しく思いながらも、少しほっとする。

 おかしくなってしまっているのは、記憶を忘れてしまっている仁美だけじゃない。僕も、相当重症だ――。

 仁美が作ってくれた料理とケーキを食べたあと、僕らは一緒に食器を片付けて、リビングで少し寛いでからそれぞれ風呂に入った。

 先に寝室で横になっていると、あとからやってきた仁美が僕のほうのベッドに潜り込んでくる。
 僕らの家の寝室にはシングルベッドがふたつ並べておいてあり、一緒に暮らすようになってからの三年間、僕が仁美のベッドに入り込んだことは一度もない。気まぐれで潜り込んでくるのは、いつも仁美だ。

「葉ちゃん、一緒に寝ていい? 今日は誕生日だから」

 仁美が僕の背中側からぎゅっと抱きついて、額を擦り寄せてくる。

「誕生日じゃなくたって、勝手に入ってくるくせに。それに、今日は仁美の誕生日じゃなくて僕の誕生日なんだけど」

 クスッと笑いながら体ごと振り向くと、仁美が改めて、正面から抱きついてきた。