「原さんて、結婚早かったんですよね?」
仕事を終えてデスクを片付け始めていたとき、隣に座る木部さんが唐突にそんなことを訊いてきた。
「どうして?」
「私が入社して営業部に配属されたときには、もう原さん指輪してたよなーってふと思ったんです。てことは、入社一年目とか二年目で結婚してますよね?」
「うん、まぁ……」
左手の薬指に嵌めた指輪に視線を落としながら、木部さんの質問に曖昧に笑う。
「社会人になって間もない時期に、結婚を決意したのってすごいですよね。収入のこととか不安じゃなかったですか? 原さんの奥さんて、年上?」
「あぁ、うん。まぁ……」
「そっかぁ。早く結婚したい、って思ってた奥さんの希望に応えてあげたんですね。原さん、優しいなー」
「それはどうだろう……」
「男らしくて、潔いと思います。私も今の彼氏と結婚考えてるんですけど、同い年だからか、まだ経済的余裕がないって渋られてて……。しかも、結婚しても職場で結婚指輪は付けたくないとか言うんですよ。最近は付けてる男の人多いのに……」
どうやら木部さんは、彼氏の愚痴を聞いて欲しかったらしい。僕はさりげなく腕時計で時間を気にしながら、少しだけ木部さんの愚痴に付き合った。