「仁美ちゃんの記憶は、いつ戻るかもわからないのよ。葉一の奥さんだった人とはいえ、蓮二がそこまで背負う必要ない」
特に母が最後まで反対していたけれど、仁美を引き受けるという僕の意志は変わらなかった。
僕の意志が固いことを知って、仕方なく許可してくれた母は、僕らの同居生活に条件をつけた。
「ふたりが一緒に暮らすのは、仁美ちゃんの記憶が戻るまで。もしそれまでに、蓮二にほかに好きな人ができたら、仁美ちゃんの記憶が戻らなくても同居を解消すること」
そんなふうにして僕と仁美のふたり暮らしが始まり、もう三年たった。
僕と暮らすようになって、仁美がパニックを起こすことはほとんどなくなった。
仁美は定期的に病院にも通い、経過を診てもらっている。
だけど、僕は未だに「葉ちゃん」のままだ。そして、欠けてしまった仁美の記憶は戻らない。