無理やりに僕の腕を組んでリビングに連れて行った仁美が両親の前に出して見せたのは、雪だるまのような形態をした胎児が写ったエコー写真。その端に小さく印字されているのは、兄と仁美が事故に遭った日付で。兄の命日。
僕も両親も、仁美が兄の子を妊娠していたことも、事故が原因で彼女が流産してしまったことも知っていた。あの事故がなければ、兄と仁美は二人で一緒に実家に妊娠の報告をしにきていたはずだ。
もう二度と訪れることのない幸せだったはずの未来。それを思って、母が泣き崩れる。
母を支えるように両肩を抱いた父は、唇を噛んで涙を堪えていて。僕も、悔しさや憤りや悲しみで、胸の奥が熱くなった。そんな僕らの様子を、仁美はどこかぼんやりとした表情で見ていた。
仁美の様子がおかしいと周囲が気付いたのは、その出来事があって以降だ。
それ以来、仁美は頻繁に僕を訪ねて実家にやって来るようになった。
仁美は、自分が親戚の家で暮らしていることや、僕と離れて暮らしていることを不満に思っているようなのだ。
平日は僕が仕事から帰ってくる時間を見計らって。週末は必ず昼前に実家にやってきては、訊ねてくる。
「葉ちゃん、どうして私たちの家に帰らないの?」と。