家族だけで行った兄の葬儀の日。まだ事故で負ったケガが治りきっていない仁美は、椅子に座ったままずっとぼんやりとしていた。
両親も僕も、まだ二十代だった兄の死をうまく受け入れるのが難しかった。でもきっと、仁美は、僕たち以上に兄の死を受け止めるのが難しかっただろう。
仁美は兄と結婚する数年前に、唯一の肉親だった母親を病気で亡くしている。仁美にとって、兄は新しくできたたった一人の家族だったのだ。
「私も一緒に連れて行ってくれたらよかったのに……」
葬儀の終わりに仁美が静かにつぶやくのを聞いた母は、彼女の手をぎゅっと潰れんばかりに握りしめて泣いた。
「そんなこと言わないで。葉一は、仁美ちゃんだけでも助かってよかった、って。きっとそう思ってるから」
そう言われた仁美は、母の手を握り返して「わーっ」と泣いた。ずっと堪えてきたものを、全て押し流すみたいに。
葬儀のあと、仁美の母親の姉にあたる人が、迎えにきた。ケガが完治しておらず、精神的にもまだ不安定な彼女のことを、しばらく預かってみてくれるらしい。
両親はともかく、僕はもともと、兄の妻である仁美とはほとんど交流がなかった。正月やお盆休みに兄と連れ立って実家にやってくる仁美と、軽く挨拶を交わす程度の関係だった。
だからそのときは、親戚の女性に連れられて去って行く仁美の頼りなさげな後姿を見送りながら思っていた。
彼女と顔を合わすのは、これが最後かもしれないな……、と。