きっとあの頃僕たちは愛に飢えていたんだと思う。

一章.出会い
私が通っている高校は特殊だ。5時にチャイムが鳴ったかと思えばそれから10分後には誰もいない。私は家という空間がこの世でもっとも嫌いだ。帰ったら殴られ、蹴られしまいには中に入れてすらもらえない。だから、5時のチャイムが鳴った後の1人の空間がもっともすきだった。だが今日は違った。いつもなら誰もいないはずの教室に一人クラスでもおとなしい男子が1人ぽつんと。その様はいつもの私を客観的にみているようだった。私はこんなに惨めだったのか。私がいつも通りにひとりで本やらなんやらを読んでいると彼はおもむろに立ち上がり私に声をかけてきた。
「浅沢さん、なんでここにいるの?」
浅沢さや、私の名前だ。私はクラスでも静かで友達もごく限られていたため名前を覚えられているとはおもっていなかった。
「それはこっちのセリフだよ。あなたこそなんでここにいるの。」
「僕の名前はあなたなんかじゃない。坂田陸って名前があるんだ。」
いきなりそう言われ私は少し驚いた。クラスが一緒とは言え面識が無い人にそう強く言えるのか。彼は自分の名前を大切にしているみたいだった。私とは違う。
「ごめん、坂田くんなんで今ここにいるの。」私はもう一度聞き直した。
「今帰ったら人が多いじゃないか。」
その返しに対して私は疑問を持たざるを得なかった。今までは。なぜ今更。
「なんで今までは普通に帰ってたの?」
「母親がいてくれたからかな。亡くなったんだ先週。大好きだった母親が。忌引きで休んでたんだけどな。分かんなかったか。」
その言葉に理解ができなかった。自分ならば母親が死んでしまえという程に憎かったからである。
「浅沢さんはなんでいるの?」
私は正直に答えようか悩んだ。今の坂田くんに正直に母親が憎いなど言ってしまえばどう思うだろうか。私が憎いだろうな。私は愛されてるあなたが憎いけれど。私が答えず黙っていると坂田くんが先に口を開いた。
「言えないなら大丈夫だよ。ごめんね無理させてしまって。」
私の頬を一粒の涙がつたった。
「ごめん、ごめんもう聞かないから。泣かないで。」
目を擦っていたら凄く焦っている坂田くんが目に映った。
「ううん。大丈夫、ありがとう!ごめんね心配かけて。」
この時私は何故泣いたんだろう。