「ん?そんな話したっけ?ああ、そう言えばしたかもね。あれは本当だよ。俺が大学生の時に、前を歩いていた女の子がハンカチを
落としてね。それを拾ってあげたことがきっかけで仲良くなったな」
「あの時、私を見ていませんでしたか?」
「どうだったかな?ああ、思い出した、見てたよ。ついこの間似たような体験があったなって思ったから、つい見ちゃったんだ、
ごめんね」
先生の言っていることは全て筋が通っていた。私に好意があるのではと思っていたことには全てちゃんとした理由があったようで、
それがわかった途端にすごく恥ずかしくなった。この場から逃げ出したいと思ったが、突然走り出すのもおかしいと思いぐっと
堪えた。
「吉田さん、大丈夫?」
そんな私を察してか、前田先生が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫です、色々と不思議だったことが解決しました、ありがとうございました、それでは失礼します」
「うん、気を付けて帰ってね。あ、でも・・・前と同じようなことがこの歳になってまた起きるなんて、運命かもね」
そう言いながらにこりと笑って、手を振る前田先生。せっかく落ち着いた気持ちがまたドキドキとしてきた。帰りながら、今日の
前田先生の話を頭の中で整理した。まず、私が好かれているんじゃないかと思ったことについては全て私の勝手な妄想だった
ようだ。そこを理解して落ち着けたなと思っていたのに、最後に「運命かも」だなんて少し思わせぶりなことを言ってきた。
深く考える必要はないのかもしれないが、今日の私は落ち着いて考えることができなかった。明日以降冷静になって考えよう、
今日はもう何も考えずにいようと思い、急いで家へと帰った。
家に着き、今日の出来事を改めて振り返ってみることにした。まず、結論として私が考えていた前田先生が私に好意を持って
いるんじゃないかということは全て私の妄想だった。思わせぶりとも取れるような発言はあったが、前田先生からすればそんな気は
なくただ単に大学の生徒に接しているだけだったようだ。このことを考えた時、私は少し意気消沈した。そのことが、自分で少し
面白かった。本来であれば、大学の先生からの好意なんて問題になりそうなことはない方が良いに決まっている。それなのに、