こんな偶然があるのだろうか、と思った。先ほど私の定期券を拾ってくれた人が先生で、しかも私が受けている講義をこれから
担当してくれるなんて。少し運命的なものを感じながらも、そう言ったこともあるんだなと思い真面目に講義を受けることにした。
講義が終わった時点で、先ほどのお礼を言おうと思い私は先生の元へ向かった。
「先生、先ほどはありがとうございました。まさかこんな偶然があるだなんて思いもしませんでした」
「ん?あれ?えっと・・・吉田さん、だっけ?なんでここに?」
「先生の講義を受けていたに決まってるじゃないですか。まさかさっき定期を拾ってくれた人が次に受ける講義の先生だった
なんて思いもしませんでしたよ」
「へぇ、そんな偶然もあるものなんだね。とりあえず、これからよろしくね。定期券を拾ってあげるくらいの助けはしてあげられる
けど、成績はしっかりと評価するからね」
「わかってますよ、これからよろしくお願いします」
そんな会話をして、教室を後にした。そして先生のことを少し考えてみる。年齢は恐らく40代前半と言ったところだろうか。
スタイルはシュッとしていて、顔はそれなりに整っている。性格についてはまだわからないが、少なくとも誰かが定期券を落として
いたら拾ってあげる程度には善人なのだろう。講義の内容もわかりやすかったので、折角不思議なことで知り合えたのだから
少しは頑張って良いところを見せようなんて考えながら、その日は終わった。そして翌日以降も日々は淡々と過ぎて行った。
当たり前と言えば当たり前の話ではあるが、日々大学に通っている上でそうそう事件なんて起きやしない。この間の定期券を
落としたことが最大の事件だと言えるレベルだ。そんなある時のお昼、ご飯を食べようと思った時にふと大学にある学食に行って
みようと思った。普段はあまり利用することはないのだが、毎回コンビニにご飯を買いに行くのも面倒だし、そもそもコンビニの
ご飯に少し飽きてきている自分もいたからだ。学食に行くと、当然ではあるが学食はそれなりに混んでいた。これが私があまり
学食を利用しない理由の一つではあるのだが、今日はわかっていて利用しているのだ。まずは席の確保だなと思い辺りを見回して
いると、声が聞こえた。
「おーい、吉田さん」