「ああ、あと、年齢はできるだけ近い方がいいな。あんまり離れているとどう接していいかわからなくなっちゃうからね」
「そうですか。今日の手伝いは終わったので失礼します」
「え?もう終わったの?ありがとうね」
私は講師室から飛び出してしまった。前田先生が付き合いたい女性は、見た目は気にしないがしっかりとしていて、年齢の近い人、
とのことだった。見た目については気にしないとは言っていたが、それでもある程度の身だしなみは必要だろう。それくらいで
あれば私はやっているし、身につけるものについてはこだわりはないので前田先生に合わせることもできる。だが、年齢だけは
どうすることもできなかった。あまり年齢が離れているとどう接していいかわからなくなっちゃう、と言っていた。それはつまり
私に対してもどう接すればいいか悩んでいるということではないだろうか。そんなことを考えてしまい、前田先生の前には
いられなくなった。それからというもの、私は講師室へは行かなくなった。前田先生に合わせる顔がないし、年齢差はあれど
恋をさせてみる、と思えるほどの自信もなかった。講義の際は必ず顔を合わせることになるが、たくさんの生徒がいる中の一人
としてできる限り目立たないようにひっそりと過ごした。するとある時の講義後、前田先生に呼び止められた。さすがに無視をする
わけにはいかないので前田先生の前へ行くと、前田先生はばつが悪そうに話し出した。
「最近、講師室に来てくれなくなったよね。いや、そもそもが無償で手伝ってくれてたことだから、強制をする気は全くない
んだけど、何かあったのかなと思って・・・。最後に来てくれた時も、突然いなくなっちゃったから驚いたし・・・」
至極真っ当なことを言っているように思えた。前田先生からすれば、いつも手伝いにきてくれていた生徒が突然来なくなったの
だから何かあったのかと思うのは当然だろう。ここで私はなんと言おうかと悩んでいると、前田先生が続けて話しだした。
「もし、俺が何かをしてしまったというのなら謝るよ、ごめん。また来てくれって頼むのは手伝ってくれって頼んでるみたいに
なるからできないけど、それだけ伝えたかったんだ」
そう言いながら、私に頭を下げた。その姿を見て、私の中で何かがはじけた。そして、私は前田先生に言った。