定期券を、前田先生が拾ってくれた。それだけであればよくある話で終わるのだが、その後前田先生は私が受けている講義にも
現れた。そしてたまたま私が大学の食堂に行った時にもいて、席まで用意してくれた。それまでに前田先生は数々の思わせぶりな
ことを言って私を惑わせていた。そのことで悩んでいると偶然前田先生に会って、全てが私の独りよがりだと判明した。ここまでで
終わってくれればよかったのだが、そんな状態で悩んでいた時に今のような出来事だ。傘を貸してくれたことはもちろん嬉しい。
だがそんなことだけで恋に落ちるほど馬鹿な女ではない。結局のところ、優しさなのだ。定期券を拾ってくれたことも、食堂で
席を案内してくれたことも、傘を貸してくれたことも全ては前田先生の優しさだ。世の中には優しさを押し付けてくるような
人もいるが前田先生はそんなことはしない。あくまでもさりげない優しさで私に接してくれる。私はそのさりげない優しさに
恋をしてしまった。さて、自身の感情を認識した私だがどうすれば良いだろうか。ここで前田先生に突然告白をするなんて勝率が
あるわけはないし、そもそもそんな勇気もなかった。ではどうするべきか。悩みに悩んだが、答えが出なかった。そもそも、こんな
悩みに答えなんてあるわけがなかった。大学とはいえ、生徒が先生に恋をするのだ。そんなどこかで聞いたことがあるような話の
答えなんて思いつくはずがなかった。そしてドラマや映画などの作り話では、こういった話は大体失敗で終わるのだ。だから
ドラマや映画を参考にすることはできない。そんなことを考えて出た答えは、やはり誰かに相談しよう、だった。誰かと言えば
一人しかいない。みほだ。次にみほに会ったときに相談しようと思い、私は前田先生の傘をさして家に帰った。そして翌日、みほが
いたので声をかけた。
「みほ、ちょっと話があるんだけど」
「うん、どうしたの?」
「何度か相談に乗ってもらった、私の友達が先生に好かれてるかもって話があったじゃない。それは勘違いでって
話だったんだけど」
「あったね。何かあったの?」
「この間みほに話した時に、その友達は先生をどう思っているのかって話をしてくれたじゃない。私、友達に聞いたんだけど、
どうやら先生のことが好きみたいなの」
私が話すと、みほは少し驚いた顔をした。
「それ、本当なの?」