2時間後。

「私事ではございますが、この度結婚が決まりましたっす」


え?


「おめでとう、成実ちゃん!」

会議終盤、藤原部長からの促しで衝撃の一言が成実ちゃんの口から発せられた。

部長から結婚祝いを受け取る成実ちゃん。
あっという間に祝福ムードに包まれた。

「結婚式はいつ?」
「旦那さんはどんな人?」
「結婚しても仕事続けるの?」
なんて口々に聞かれちゃってる。

「あ……お疲れっす」
「成実ちゃん……おめでとう」


引き攣った笑顔だったと思う。
恋ゲーの推しキャラに夢中なあたしとは違う。成実ちゃんはちゃんとリアルな恋をして、結婚するんだ。
ロイヤルウエディングがどうのこうのとか、妄想ばかりの痛いアラサーとはわけが違う。

心のどこかで、あたしは成実ちゃんを軽く見ていた。こんな化粧っ気のない地味なインテリ系の子に彼氏なんているわけがないと。そもそも男性はアニメキャラが好きって言ってたから私と同じ感覚なんだろうなって勝手に思い込んでいた。
「奏音さん」
「な、何?」
「ヲタverseって知ってます?」

おたばーす?

「え、何それ?」

知らない。「おた」は「ヲタク」のことだろうかと何となく推測できるけど。

「ヲタ向けの婚活アプリっす」
「へえ、それが何か?」
「自分、これで彼と出会ったんすよ」
「え?」

そもそも、成実ちゃんが婚活してたことすら知らなかった。

「まさか、こんなに早く結婚決まっちゃうなんて思わなかったっすけど」
「成実ちゃんって、今いくつだっけ?」
「26っす」

若い。いいなあ。一番いい時じゃん。

ああ。成実ちゃんって、こんなに眩しかったかな。やっぱ、結婚が決まると女の子は輝きが増すのかな。

あたしはもう彼女とは肩を並べて歩けないくらい、置いてけぼりを食らった感覚に陥った。
というか、初めから同類だと思っていたのはあたしだけだったんだ。
成実ちゃんが急に遠い存在になっていくような気がした。

「そっか。羨ましいなあ」

婚活は若ければ若いほど有利だ。だから20代が婚活市場に残ってるなんて話、殆ど聞かない。
そういうのもちゃんと考えてたのかな? そうでなかったとしても、目の前に訪れた結婚のチャンスをものにして、早々に決めるなんてカッコ良すぎる。

「うーん、自分は何となく結婚するなら30くらいかなと思ってたんすけどね。一昨年興味本位で始めたヲタverseで彼と出会って、昨年から同棲してるんすけど。まあ、そろそろ家族にならないかって言われたんで」

ケヴィン、ごめんなさい。

あたし……。


「あたしもやる」
「え?」

「あたしもやりたい。ヲタverse」