一度クリアすると、直近の自動セーブすら上書きされて初めからやり直さねえといけねえんだよ。


なあ、クソババァよぉ。


あんたにこの絶望がどれほどのものがわかるか?


あたしが漸く掴んだ彼との最高の未来を、


くっっっだらねえ電話一本寄越しやがったせいで、すべてがオジャンだ……。


「万死に値する!!!!」


煮えくり返った腹の臓物を宥めるように、あたしは意を決して通話ボタンを押した。


「……何の用だてめぇコラ」

声のトーンは限りなく低く。

天保山よりも低く。
冷蔵庫でキンキンに冷やした麦茶よりも低く。

何なら冷凍庫でカッチカチに凍ったハーゲンダッツのカップアイスよりも低く。

今できる最大限の冷ややかな対応をしてやった。

《ちょっと、電話くらいすぐ出なさいよ。どうせまたしょーもないゲームでもしてたんでしょう》

いきなり実践とくるか。上等だこんにゃろ!

「くだらねえのはテメエの電話の方だろうが! 毎日毎日鬱陶しい蝿みたいに電話ブーブーブーブー鳴らしやがって!」


《あんたねえ、不機嫌になると出るそのきったない言葉遣いやめなさいよ。そんなんだから結婚どころか彼氏もできないんじゃないの》


今結婚しかけてたんだよ!


誰もが羨むロイヤルウェディングだったのによ。


史上最大級のあたしの幸せの瞬間を、テメェが奪ったんだろうが!


「だから! そういうのウザいんだよ! あたしは三次元の男には興味ないの! どうせまたしょぼくれたオッサンかハゲ散らかしたダッサイ男との見合いの話でしょ? そんなのと一緒になるくらいなら、一生独身のままでいたほうが遥かにマシだわ!」

クソババァめ、また余計な見合い話持ってきやがったな。いくら自分の友達が孫ラッシュだからって、あたしに結婚させようとしたり出産のリミットがとか言うのはあまりに一方的で身勝手なババアの願望だ。そういうデリカシーの欠片もないところが嫌であたしは家を出た。
そもそも、二次元の男性以外を好きになったことのないあたしが本気で三次元の男を好きになれると思うのか?

《何よ、まだ何も言ってないのに。まあいいわ。それより、田村さんところの結婚相談所がね、今入会すると入会金がタダなんだって。だからこの機会にーー》

ブツッ!


「フゥ゙ー フゥ゙ー フゥ゙ー……」




切ってやった。




何が入会金タダだ。


こっちは課金してでも幸せな結末を手に入れるために尽くしたい推しがいるというのに。



許すまじ、許すまじ許すまじ許すまじ。

「許すまじ!!」