「ちょっと、カマかけてみます?」
「え?」
「何か、臭うんすよ」
「あ、ごめん」
「何がっすか?」
「え、あ……何でもない。臭うって、どのへんが?」
「こいつの、このあたりっす」
成実ちゃんは、プロフの[母性的で包容力がある人]を指した。
「え、普通じゃない? これのどこが臭うの?」
成実ちゃんは続けた。
「まず、こいつの第一印象はどうだったっすか?」
「えっと……フレンドリーでコミュ力高いなと」
「あとは?」
「うーん、やたら自分のキャラクターを『可愛くない?』って聞いてきたかな。あ、ついつい盛りたくなるとか」
「そこっす」
盛りたくなる気持ちはわかるよ。だって本当に可愛いし。より良く見せたいって心理も働くよね。でも、そんなに怪しいかな?

〈Kanonさんって、シナリオライターやってるんだ。すごい! どんな話書くの?〉
「ねえ、メッセージ来たけど……」
「婚活の闇をテーマにしてるって書くっす」
「ええ?」
「いいから書くっす。ある意味間違ってねえっす」

相変わらず毒舌だな。

〈婚活の闇をテーマにして書いてます〉
〈へぇ、例えばどんな?〉
「わ、ど、どうしよう。なんて書いたら……」
「ちょっと借りるっす」

成実ちゃんはあたしからスマホをさらって、高速タップでメッセージをウサぴょんに送信した。

〈女性の母性本能くすぐって可愛くおねだりしながら大金巻き上げる詐欺男〉

〈男に免疫なさそうな女を言葉巧みに誘導してその気にさせたあと金だけ奪ってトンズラする男〉

〈高いコミュ力活かして早い段階で相手の気を許すとこまでこぎつけたのを見計らって泣き落としで大金搾り取るクソ男〉

〈こういうのを中心に書いてます〉

〈こういう話書いてると、だいたい見ただけで相手のことわかるようになっちゃって〉

〈書きながら腸煮えくり返らせて、こういうクズは直ちに駆逐すべきだと思って憎しみを込めながら書いているんです〉

〈世の中から詐欺がなくなれば、もっと平和に暮らせるのにと思いませんか?〉

〈そのためには、多少話を盛っても差し支えないかなって〉

〈だって、詐欺を働く人間に気を使う必要ないですもんね〉