玉砕を覚悟の上での私の告白から、数分間が空いた。全身に張り詰める緊張を誤魔化すべく、(ぬる)くなりかけたカフェラテを口に含む。鼻から抜けていくミルキーな香りとは裏腹に、今日のそれは苦く感じた。



一方、陽向のカフェオレはまだ減る気配がない。自らの手元をへ視線を落としている彼の瞼は伏せがちになっている。ただでさえ長い睫毛がより一層際立って見えた。瞬きに合わせて微かに揺れ動く睫毛は、女の子なら誰しも喉から手が出るくらい欲しい物だ。

このまま相手の顔をじっと凝視しているのも気が引けて、自らの指同士を絡めて組まれた彼の手に私も視線を滑らせる。とてもカジュアルなデザインの指環数点が、彼の細長い指に不規則に通されている。


読書好きで物腰柔らかで、レポートにもテストにも一切手を抜かない勤勉な彼からは、耳に連なるピアスも、両手の沢山の指には嵌められている指環も連想できなくて、初めて気付きた時はそれこそ驚いたけれど、今ではすっかりこれが難波 陽向なのだと認識している。

そんな意外とアクセサリーをじゃらじゃら身に付けるのが好きな陽向が、私は好きだ。こんな彼の一面を知っているのはもしかすると私だけなのかもしれないと考えただけで、優越感を覚えてしまいそうになる。



現に今だって、彼の指環を眺めながら私の頬が自然と緩んでしまっている。それ位、私は彼に夢中なのだ。それ位、私は彼が好きなのだ。それ位、私は彼を独占したいと想っているのだ。



「ねぇ、祈ちゃん。」



相手が視線を持ち上げて、蜂蜜色の双眸に再び私の顔を映すまでに掛かった時間は、私の体感だととても短かかった。きっと物理的には数十分は流れていたのだろう。ただ、その数十分が数秒に感じる程に、私の体内時計は人生初めての告白で狂っていた。