ダウンタウンなのに、緑が多く、その先もストリートに沿って街路樹が一杯連なっていた。

「この先にポートランド州立大学があるの、この秋、私が通うところ」

「えっ?」

 てっきり他の州にいくのだと思っていた。

「ちょっと不安なんだ。ちゃんと勉強できるかなって」

 ああ、なるほど、大学生になるのが不安なのか。

「大丈夫だよ。ジェナならしっかり勉強できる」

「だといいんだけど」

「何を勉強するの?」

「アート」

「へえ、芸術分野なんだ。絵を描いたりするの?」

「うん。でも……」

「でも、どうしたの?」

「ううん、なんでもない。ちょっとやっぱりやっていけるか不安」

「ホームスクールで、自分で勉強してきたんだろ。絶対大丈夫だよ」

「ありがと」

 アートを学ぼうとしているなんて意外だった。

 ジェナの事少しだけわかった気がして、俺はなんか嬉しかった。

「ジャックは日本に戻ったら何するの?」

「また日本の大学に戻る」

「ジャックは何を学んでるの?」

「経済」

「すごい」

「別にすごい事ないんだけど、就職に有利かなって、ただそれだけの理由。そして英語も話せたらいいだろうって、そこで一年留学したんだ」

「そうだったんだ。将来、アメリカで働けるかもしれないね」

「そ、それはどうだろう。そこまでビジネスの英語力ないかも」

「じゃあ、日本の大学卒業したら、こっちの大学院にくればいい。MBA(経営学修士)がとれるよ」

「簡単に言ってくれるけど、難しそう」

「ジャックならできるって。そしたらまた一緒にいられる」

 懇願するジェナの瞳に、俺はどう受け答えていいかわからない。

 英語『を』勉強するだけでも大変だったのに、英語『で』勉強するなんて俺には苦しい。

「そうなれるように、もっと英語頑張らないと」

 へへへと笑ってごまかすも、またここに戻ってきたい気持ちもあった。

 その後、ジェナが通う大学を一緒に見に行った。

 街の中心部なのに緑が一杯で落ち着いて、学びの場所にはいいところだと思った。

 しかしジェナの瞳はどうしても暗かった。

 そんなジェナを励ましたくて「ガンバレ!」と俺は日本語で叫んだ。

「GAMBARE? どういう意味?」

「うーん、この場合はYou can make it!」

「ガンバレ?」

「そう、ガンバレ。ジェナならできる!」

「ジャック、ありがとう。やっぱりあなたはジャックだ」

 ジェナの目が潤んでいる。

 それを見られたくないのか、くるっと背を向けた。

「次の場所にいこうか」

 ジェナが先を行ってしまった。

「ちょっと待って」

 追いかけるも、さっきのジェナの言葉が気になった。

 俺がやっぱりジャック?

 一体ジャックってジェナにとってなんなんだろう。

 ジェナはそれを俺に教えようとしない。

 帰るときには教えてくれるのだろうか。

 帰る?

 そっか、俺、いつまでこうしてればいいんだろう。

 なんだか寂しくなってる。

 もう一度ポートランド大学を振り返った。

 MBAか。

 ハードルの高さに溜息が漏れた。