6
「逸見……さんですね」
「あなたは?」
「久太郎の父の宇野海禄と申します。山下にはそのままここを見張るように指示を出しました。あとは任せて下さい」
海禄はアパートの方に視線を向けた。ロクもその方向を見れば、窓のところで手を振る仕草がちらりと見えた。
「山下……あっ、笹田さんのことか。そうか、あなたも刑事さんなんですね。あの、ちょっと話したい事が」
「私もです。よろしければ、私の車に乗ってお話しませんか」
前方に白いセダンが停まっていた。ロクは助手席に乗車した。
海禄はエンジンを掛け、車を走らせた。前を見つめる表情が緊張している。その隣でロクは瀬戸の妻の脅しについて、海禄に報告する。
「瀬戸の妻のことはこちらでも把握しましたので、後は上手くいくはずです」
「本当ですか?」
「はい。彼女はとても賢い人です。すでに警察に相談し脅しにも屈服しませんでした」
「でも、かなり疲れて大変そうですけど」
「全てが終わるまでは安心できないのでしょう。そのうちいい知らせが届いて元気になられるはずです」
「ということは、上手く事が運んでいるのですね」
「そういうことです」
それを聞いてロクは肩の力が抜けてほっと自然に息をついた。
暫く会話が途絶えたあと、海禄は話題を変えた。
「久太郎が逸見さんをとても気に入ってまして、家でも話をしてくれるんです」
「久太郎……君、とてもいい子ですよね。素直で心が真っ直ぐで澄んでいて、本当に優しい。きっとお父さん、お母さんの育て方がいいんですね」
「そうでしょうか。私はまだ父と言う実感がわきません。もうすぐ一歳になる娘もいるというのに」
「娘さんもいらっしゃるんですね。きっと久太郎君のように素晴らしいお子さんに成長されることでしょう。お仕事忙しいと思いますけど、子供ってしっかりと親を見ているんじゃないでしょうか」
「本当にそう思いますか? もし逸見さんにお子さんがいたらどう接するんでしょうか」
「そうですね、俺はまだまだそういう結婚とか子供とかピンとこないんですけど、でももし自分が親になったら、それなりに努力しているんじゃないでしょうか」
ロクは谷原忠義の犬の死から息子を守ってきた話や瀬戸のわざと継父から始めた子育てのことを振り返り、父親としてのあり方を少なくとも学んだと思っていた。
「もし自由に子供と会えないとしたらどうでしょう。子供は寂しい思いをしていると思いませんか?」
「宇野さんは刑事でしょうから、急なこともあって大変だとお察しします。だけど、会えた時は会えなかったときの分まで、俺は思いっきり子供と遊んでやりたいです。できる限りの事をやるしかないんでしょうね」
「子供がそれに不服を抱いて父親と向き合えないと思ったらどうでしょう」
「そうですね、いずれ時が経ち、自分が親になったときに考え方が変わるかもしれません。子育てって、口で言うほど簡単じゃないですよね。父親にも事情がありそれを全部子供に話せなくて、いつか何らかの形で伝わる事があるかもしれません」
それが谷原忠義のケースだったとロクはしみじみ思う。
「そうですね。時が経ちなんらかの形で父を理解する……そういうことあるかもしれませんね。すみません、変なこと色々とお伺いして」
「いえ、全然そんなことないです」
「折角ですので、ご自宅までお送りします」
海禄はスピードを上げた。
「場所をご存知なんですか?」
「色々と逸見さんの事は職業上調べさせて頂きました」
「そ、そうですか」
急に居心地悪くなるロク。
「ご安心下さい。何も犯罪者としてではなく、山下のことで色々とお世話になりましたので、どういった方なのかと、ただの好奇心です」
「それでどういう事がわかりましたか?」
「探偵業を無理やりさせられたってことでしょうか」
「無理やりというほどでも。いい条件だったのでつい。本当は探偵業が務まるほどの能力なんてないに等しいんですけど」
ロクはつい白状してしまう。
「逸見さんは、斉須ヒフミをご存知ですか?」
「その名前、笹田さん――いえ、山下さんから聞きました。以前もどこかで聞いたことがあった気がするんです」
「かつて名探偵といわれ、警察署内でも伝説になっています。その探偵が活躍していた頃、私はまだ子供でした。次々と事件を解決していく話を聞き、いつしか 自分もそんな探偵になりたいと憧れたものです。高校生になって、斉須と話したとき、自分は全く能力のない探偵だと言った言葉が印象的でした。たくさん事件 を解決しているのになぜ能力がないといったのか、長年の疑問です」
海禄が言った後、ロクは暫く考え、そして口を開いた。
「助手が『事が上手く起こるように歯車が噛み合う』と以前言ってたんです。俺がそこにいるから物事が導かれていく。そうすると不思議と偶然の重なりが発生 して解決へ向かうんだそうです。俺もかろうじて謎を解いたんですけど、結局は関わった人達の意識の集合体が形になって解けただけのようがします。決して自 分ひとりの力じゃないと、その探偵はそんなことを言いたかったのかもしれません」
ロクの意見を聞いて、海禄はふっと息を漏らして微笑んだ。
「逸見さん、お会いできて本当によかった」
車はマンションの近くまで来ていた。
「もし、まだお時間ありましたら、コーヒーでもいかがです? ミミに、あっ、助手の名前なんですけど、山下さんが刑事ということをずっと黙ってたんですけどそろそろ報告しないといけなくて、宇野さんが一緒にいてくれると、解決に向かっていると説明しやすいんですが」
「わかりました。そしたら少しだけお邪魔します。
海禄があっさりと承諾してくれて、ロクはほっとした。
車を道路の脇に止め、そこから歩いてあたり障りのない会話をしながらマンションのゲートに向かう。そして自分の部屋のドアの前に来たとき、鍵を取り出して開錠する。レバーハンドルを押し下げドアを開け、ロクは部屋の暗さに驚いた。
「あれ? 真っ暗だ。ミミ? いるのか?」
すぐさま電気をつけ、ミミを探す。
海禄は玄関先でその様子を心配しながら見ていた。
「何か、問題ですか?」
「おかしい。ミミがいない」
「買い物で遅くなっているんじゃないですか? 電話をすれば居場所はすぐに……」
「それが、ミミはスマホを持ってないんです」
その時、スマホの電話のベルがなった。
ロクと海禄はそれに反応してスマホを取り出す。
「あっ、私でした。山下からです」
海禄が通話を始めた。
「もしもし、ああ、今、逸見さん宅だ。えっ、なんだって。白石さんが? すぐに病院へ確認してくれ」
海禄は電話を切った。
「白石さんがどうしたんですか?」
「本当の笹田のメールアドレスにメッセージが入ったそうです。それによると、白石さんを拘束した。危害を加えてほしくなければ、早くブツを渡し、仕事を再開しろとの内容だったそうです」
「そんな、警護しているんじゃなかったんですか」
「そのはずです。誘拐が起これば現行犯で即逮捕は確実です。笹田が逮捕された情報はやつらには漏らしてません。ただ連絡が取れない、逃げたと思わせていました」
「じゃあ、なぜ」
その時、また海禄のスマホに電話が掛かってきた。
「もしもし、ああ、そうか。わかった。また後で連絡する」
「なんて?」
「今、病院で張り込みの連中に確認を取りましたら、白石さんは忙しく病院で働いているとのことでした」
「それじゃ、ただのはったりでしょうか?」
「はったりなんて、そんな事するような奴らじゃないんですが」
「じゃあ、一体誰を拘束したと……」
ロクがそこまでいったとき、ありえないと否定しながらも、嫌な予感がよぎった。部屋の隅々を見渡し、ミミの部屋のドアを開けた。
それはすんなりと開いたが、中には誰もいなかった。
「こんなこと馬鹿げていると思うんですが、まさか、白石さんと間違われて助手のミミが拘束されたということは考えられないでしょうか? 白石さんとは接点もあって勘違いも考えられるかも」
「すぐ、確認とります。確か、今日学校でお会いしたとき、白いドレスを着てらっしゃいましたね。そのままの服装ですか?」
「はい、そうです。あっ、写真があります」
瀬戸から貰った写真をシャツのポケットから取り出し見せた。
海禄はそれをスマホに写した。スマホを操作しながらロクに質問する。
「ミミさんと別れたのは何時ごろですか?」
「四時過ぎだったと思います。コウシラン通りで別れました」
「香子蘭通り、四時過ぎですね。この辺りの監視カメラを調べさせます」
海禄はメールを送った後、すぐに電話を掛けて署のものと話し始めた。
それを側で聞きながら、ロクは動揺する。もし、ミミに何かあったらと考えると、気が気でならない。キッチンを見つめ、文句を言い合った姿、お菓子を作っている姿、初めてラテを飲んだときのハッとした時の顔などが色々と頭に浮かぶ。
暫くしたのち、海禄は悲痛な表情をロクに向けた。
「監視カメラに、白いドレスの女性が車に乗り込む画像が見つかりました。時刻も四時を過ぎた頃と一致しています」
「嘘だろ。どうして」
「逸見さん落ち着いて下さい。今、周辺の監視カメラから行方を調べてます。すぐ居場所が分かるはずです」
その時、ロクのスマホにメール受信の音が鳴った。ロクはすぐそれをチェックする。全く知らないアドレスからだった。それを開いた時ロクは困惑した。
「なんだこれ。『すぐさま南埠頭の倉庫へ行け。斉須ヒフミ』……なんで俺のメールアドレスを」
「斉須ヒフミからのメールなんですね。それはきっとミミさんがそこにいると知らせているに違いありません」
「しかし、なぜ俺のメールアドレスを」
「そんなことは後回しです。とにかくそこへ。こちらからも応援を要請します」
海禄の行動は早かった。体がすぐに反応する。それとは対照的にロクは何をどう動いていいのか固まっている。いろんなことが頭の中でぐるぐるするのに、ロクはそれを整理できない。取り乱し、体の自由が利かずただ突っ立っていた。
「逸見さん、何をしているんですか。早く!」
海禄の声でハッとし、スイッチが入ったように叫んだ。
「ミミ!」
ロクは海禄の後を追いかけた。
「逸見……さんですね」
「あなたは?」
「久太郎の父の宇野海禄と申します。山下にはそのままここを見張るように指示を出しました。あとは任せて下さい」
海禄はアパートの方に視線を向けた。ロクもその方向を見れば、窓のところで手を振る仕草がちらりと見えた。
「山下……あっ、笹田さんのことか。そうか、あなたも刑事さんなんですね。あの、ちょっと話したい事が」
「私もです。よろしければ、私の車に乗ってお話しませんか」
前方に白いセダンが停まっていた。ロクは助手席に乗車した。
海禄はエンジンを掛け、車を走らせた。前を見つめる表情が緊張している。その隣でロクは瀬戸の妻の脅しについて、海禄に報告する。
「瀬戸の妻のことはこちらでも把握しましたので、後は上手くいくはずです」
「本当ですか?」
「はい。彼女はとても賢い人です。すでに警察に相談し脅しにも屈服しませんでした」
「でも、かなり疲れて大変そうですけど」
「全てが終わるまでは安心できないのでしょう。そのうちいい知らせが届いて元気になられるはずです」
「ということは、上手く事が運んでいるのですね」
「そういうことです」
それを聞いてロクは肩の力が抜けてほっと自然に息をついた。
暫く会話が途絶えたあと、海禄は話題を変えた。
「久太郎が逸見さんをとても気に入ってまして、家でも話をしてくれるんです」
「久太郎……君、とてもいい子ですよね。素直で心が真っ直ぐで澄んでいて、本当に優しい。きっとお父さん、お母さんの育て方がいいんですね」
「そうでしょうか。私はまだ父と言う実感がわきません。もうすぐ一歳になる娘もいるというのに」
「娘さんもいらっしゃるんですね。きっと久太郎君のように素晴らしいお子さんに成長されることでしょう。お仕事忙しいと思いますけど、子供ってしっかりと親を見ているんじゃないでしょうか」
「本当にそう思いますか? もし逸見さんにお子さんがいたらどう接するんでしょうか」
「そうですね、俺はまだまだそういう結婚とか子供とかピンとこないんですけど、でももし自分が親になったら、それなりに努力しているんじゃないでしょうか」
ロクは谷原忠義の犬の死から息子を守ってきた話や瀬戸のわざと継父から始めた子育てのことを振り返り、父親としてのあり方を少なくとも学んだと思っていた。
「もし自由に子供と会えないとしたらどうでしょう。子供は寂しい思いをしていると思いませんか?」
「宇野さんは刑事でしょうから、急なこともあって大変だとお察しします。だけど、会えた時は会えなかったときの分まで、俺は思いっきり子供と遊んでやりたいです。できる限りの事をやるしかないんでしょうね」
「子供がそれに不服を抱いて父親と向き合えないと思ったらどうでしょう」
「そうですね、いずれ時が経ち、自分が親になったときに考え方が変わるかもしれません。子育てって、口で言うほど簡単じゃないですよね。父親にも事情がありそれを全部子供に話せなくて、いつか何らかの形で伝わる事があるかもしれません」
それが谷原忠義のケースだったとロクはしみじみ思う。
「そうですね。時が経ちなんらかの形で父を理解する……そういうことあるかもしれませんね。すみません、変なこと色々とお伺いして」
「いえ、全然そんなことないです」
「折角ですので、ご自宅までお送りします」
海禄はスピードを上げた。
「場所をご存知なんですか?」
「色々と逸見さんの事は職業上調べさせて頂きました」
「そ、そうですか」
急に居心地悪くなるロク。
「ご安心下さい。何も犯罪者としてではなく、山下のことで色々とお世話になりましたので、どういった方なのかと、ただの好奇心です」
「それでどういう事がわかりましたか?」
「探偵業を無理やりさせられたってことでしょうか」
「無理やりというほどでも。いい条件だったのでつい。本当は探偵業が務まるほどの能力なんてないに等しいんですけど」
ロクはつい白状してしまう。
「逸見さんは、斉須ヒフミをご存知ですか?」
「その名前、笹田さん――いえ、山下さんから聞きました。以前もどこかで聞いたことがあった気がするんです」
「かつて名探偵といわれ、警察署内でも伝説になっています。その探偵が活躍していた頃、私はまだ子供でした。次々と事件を解決していく話を聞き、いつしか 自分もそんな探偵になりたいと憧れたものです。高校生になって、斉須と話したとき、自分は全く能力のない探偵だと言った言葉が印象的でした。たくさん事件 を解決しているのになぜ能力がないといったのか、長年の疑問です」
海禄が言った後、ロクは暫く考え、そして口を開いた。
「助手が『事が上手く起こるように歯車が噛み合う』と以前言ってたんです。俺がそこにいるから物事が導かれていく。そうすると不思議と偶然の重なりが発生 して解決へ向かうんだそうです。俺もかろうじて謎を解いたんですけど、結局は関わった人達の意識の集合体が形になって解けただけのようがします。決して自 分ひとりの力じゃないと、その探偵はそんなことを言いたかったのかもしれません」
ロクの意見を聞いて、海禄はふっと息を漏らして微笑んだ。
「逸見さん、お会いできて本当によかった」
車はマンションの近くまで来ていた。
「もし、まだお時間ありましたら、コーヒーでもいかがです? ミミに、あっ、助手の名前なんですけど、山下さんが刑事ということをずっと黙ってたんですけどそろそろ報告しないといけなくて、宇野さんが一緒にいてくれると、解決に向かっていると説明しやすいんですが」
「わかりました。そしたら少しだけお邪魔します。
海禄があっさりと承諾してくれて、ロクはほっとした。
車を道路の脇に止め、そこから歩いてあたり障りのない会話をしながらマンションのゲートに向かう。そして自分の部屋のドアの前に来たとき、鍵を取り出して開錠する。レバーハンドルを押し下げドアを開け、ロクは部屋の暗さに驚いた。
「あれ? 真っ暗だ。ミミ? いるのか?」
すぐさま電気をつけ、ミミを探す。
海禄は玄関先でその様子を心配しながら見ていた。
「何か、問題ですか?」
「おかしい。ミミがいない」
「買い物で遅くなっているんじゃないですか? 電話をすれば居場所はすぐに……」
「それが、ミミはスマホを持ってないんです」
その時、スマホの電話のベルがなった。
ロクと海禄はそれに反応してスマホを取り出す。
「あっ、私でした。山下からです」
海禄が通話を始めた。
「もしもし、ああ、今、逸見さん宅だ。えっ、なんだって。白石さんが? すぐに病院へ確認してくれ」
海禄は電話を切った。
「白石さんがどうしたんですか?」
「本当の笹田のメールアドレスにメッセージが入ったそうです。それによると、白石さんを拘束した。危害を加えてほしくなければ、早くブツを渡し、仕事を再開しろとの内容だったそうです」
「そんな、警護しているんじゃなかったんですか」
「そのはずです。誘拐が起これば現行犯で即逮捕は確実です。笹田が逮捕された情報はやつらには漏らしてません。ただ連絡が取れない、逃げたと思わせていました」
「じゃあ、なぜ」
その時、また海禄のスマホに電話が掛かってきた。
「もしもし、ああ、そうか。わかった。また後で連絡する」
「なんて?」
「今、病院で張り込みの連中に確認を取りましたら、白石さんは忙しく病院で働いているとのことでした」
「それじゃ、ただのはったりでしょうか?」
「はったりなんて、そんな事するような奴らじゃないんですが」
「じゃあ、一体誰を拘束したと……」
ロクがそこまでいったとき、ありえないと否定しながらも、嫌な予感がよぎった。部屋の隅々を見渡し、ミミの部屋のドアを開けた。
それはすんなりと開いたが、中には誰もいなかった。
「こんなこと馬鹿げていると思うんですが、まさか、白石さんと間違われて助手のミミが拘束されたということは考えられないでしょうか? 白石さんとは接点もあって勘違いも考えられるかも」
「すぐ、確認とります。確か、今日学校でお会いしたとき、白いドレスを着てらっしゃいましたね。そのままの服装ですか?」
「はい、そうです。あっ、写真があります」
瀬戸から貰った写真をシャツのポケットから取り出し見せた。
海禄はそれをスマホに写した。スマホを操作しながらロクに質問する。
「ミミさんと別れたのは何時ごろですか?」
「四時過ぎだったと思います。コウシラン通りで別れました」
「香子蘭通り、四時過ぎですね。この辺りの監視カメラを調べさせます」
海禄はメールを送った後、すぐに電話を掛けて署のものと話し始めた。
それを側で聞きながら、ロクは動揺する。もし、ミミに何かあったらと考えると、気が気でならない。キッチンを見つめ、文句を言い合った姿、お菓子を作っている姿、初めてラテを飲んだときのハッとした時の顔などが色々と頭に浮かぶ。
暫くしたのち、海禄は悲痛な表情をロクに向けた。
「監視カメラに、白いドレスの女性が車に乗り込む画像が見つかりました。時刻も四時を過ぎた頃と一致しています」
「嘘だろ。どうして」
「逸見さん落ち着いて下さい。今、周辺の監視カメラから行方を調べてます。すぐ居場所が分かるはずです」
その時、ロクのスマホにメール受信の音が鳴った。ロクはすぐそれをチェックする。全く知らないアドレスからだった。それを開いた時ロクは困惑した。
「なんだこれ。『すぐさま南埠頭の倉庫へ行け。斉須ヒフミ』……なんで俺のメールアドレスを」
「斉須ヒフミからのメールなんですね。それはきっとミミさんがそこにいると知らせているに違いありません」
「しかし、なぜ俺のメールアドレスを」
「そんなことは後回しです。とにかくそこへ。こちらからも応援を要請します」
海禄の行動は早かった。体がすぐに反応する。それとは対照的にロクは何をどう動いていいのか固まっている。いろんなことが頭の中でぐるぐるするのに、ロクはそれを整理できない。取り乱し、体の自由が利かずただ突っ立っていた。
「逸見さん、何をしているんですか。早く!」
海禄の声でハッとし、スイッチが入ったように叫んだ。
「ミミ!」
ロクは海禄の後を追いかけた。