蒼が教室から出て行くのを見届けて、私は教卓の上に置かれた日誌を手に取って今日記入するページを開く。 

日誌には、今日の授業の科目名と担当名とその内容と、欠席者・早退者を記入する他、私のクラスではいつの頃からか、日誌の自由記載欄に前日の日直当番が設定したお題に沿って何か書かなきゃいけないというルールができていた。

本日のお題は『小学生のとき捕まえたレア昆虫ベスト3』。 回答できる人が限られすぎるお題に、思わず「なんだこれ」と声が漏れる。

「虫取りなんかした覚え……」

……いや、ある。 あれは確か、小学3年の夏休みだった。

自由研究に蒼が昆虫標本を作ると言って、私にも虫取り網と虫取り籠を持たせて山に遊びに行ったんだ。

私は虫なんか興味ないし寧ろ苦手だけれど、蒼の誘いを断るわけにはいかなかった。

でも、蒼も別に虫が好きだった訳でもなくて。

「あー……そうだ」

そう小さく呟いて、机に突っ伏した。 あの時も、蒼には好きな子がいたんだ。

その子が昆虫好きで、でも夏休み期間は長期間旅行に行くから昆虫標本が作れないとかなんとか言っていて、蒼はその子に喜んでほしくて自分の自由研究を昆虫採集と標本作りにしたんだ。

うわー……思い出すと結構えぐい。 いざ蒼と山に行って虫取り網を振り回すこと自体は楽しかったけれど、その本来の目的を知ったときは小学3年の私でも地味にショックだった。