……ああ、なんでこんなことになってしまったんだろう。

「ノート出してない人出してって〜」

本来なら今日日直の田中がするべき数学のノートとファイルの回収を、SHRが終わったいま私がやっているのは、田中の奴が早退したからだ。

今日はとにかく運が悪い。 そうじゃなかったら、転んだところを垣根に見られたり、早退した田中の代わりにノートとファイルの回収に、日誌を書く羽目になんてならない。 全部運のせい。

それに田中の早退理由も、体育で調子乗って連続バク転ばかりして気持ち悪くなったとかで、聞いた時は“そんなアホな話あるか”と思ったけれど、今にも死にそうな青白い顔を見たら流石に可哀想に思えてしまったので、仕方がない……。

「伊都、手伝うよ」

蒼もノートとファイルを持って来ると、そのまま机に積み上がったクラスメイトのノートを数え始める。

「えっいいよ。 蒼、今日もバイトでしょ?」

「大丈夫。 人数分あるかだけでも数えるよ」

クラスメイトが教室から出て行く中、香乃子も「お疲れ!」と一言告げてバイトに向かって行ったというのに、蒼はどこまで聖人なのだろう。 

私は蒼がバイトに遅刻しては大変だと思い、まだ提出せず駄弁っているクラスメイトに声を掛けてノートとファイルを回収する。

「伊都、ノートは全員分揃ってるよ」

「うん、こっちもファイルは全員分……」

……ん? 全員分? 田中の奴、いつも提出期限過ぎて色々な先生に注意を受けているというのに、今日だけはちゃっかりちゃんと出していったんだな。

「田中の分まで、ちゃんと揃ってたわ」

嫌味っぽく言うと、蒼も気付いたようで「ほんとだね。明日、田中になんか奢ってもらわなきゃね」と言うので、私は思わず笑う。

「じゃあ、俺行くね。 提出までできなくて、ごめん」

「ううん、十分。 ありがとね」