「何やってんだよ」
そんなぶっきらぼうな声が、足音とともにこちらに近づいてくる。
「な、なんでもない……」
「だいぶ派手だったけど」
「……忘れて」
私は顔を上げずに手すりに掴まって立ち上がる。 その時、右足首に少し痛みが走って私は思わず口の端を歪める。
「おい、宮下。 大丈夫か」
そう言って、垣根は私の顔を覗き込む。 私は驚いて、少し体を後ろに引いた。
「ぜんぜん、大丈夫」
私は垣根と目を合わせず、スカートを手で払って自販機の元へと向かう。 けれど、右足を少し捻ってしまったようで少しだけ歩き方が不自然になる。 でも、それより階段に打ち付けたお尻の方がジンジンと痛く感じるくらいだから、大したことはないんだろう。
「どっか痛めただろ」
「平気」
「嘘つけ」
突然腕を掴まれて、私は立ち止まる。 振り返ると、垣根は眉根を少し寄せた顔をして私を見る。
「保健室、行ったら」
「平気だってば。 ほら」
そう言って右足首を回して見せてみたけれど、やっぱり痛い。 私は何とか表情を変えずに、私の足元に視線を落とす垣根を見る。
「ほんとかよ」
「ほんとだよ」
「……なら、いいけど」
納得してないような表情だったけれど、垣根は私の腕から手を離した。
私は自販機の方へと再び向き直って無難にほうじ茶を選ぶ。 蒼は、学校の自販機ではよくレモン味の炭酸飲料を買う。
ガランと重たい音を鳴らして落ちたほうじ茶を手に取って私は振り返ると、垣根が階段を上っていく後ろ姿が見えた。 垣根の手元を見ると、身体に悪そうなパッケージの強カフェイン飲料。
ああ、なんか“っぽい”わ。
私はもう一度右足を少し回してみて、大丈夫、と小さく呟いて教室へと戻った。