私は蒼から数学の課題を写させてもらい、無事に追加課題を間逃れることができた。
でも、今日の日付が熊井の謎の脳内計算によって私の名簿番号が導き出されたのは予想外だった。 いや、予想のしようもないんだけど。
「伊都、熊井に当てられた時めっちゃ焦ってたね」
昼休憩になり、クラスメイトの香乃子がコンビニのメロンパンを食べながら言う。
「そりゃね。 あの名簿番号のやつさ、どうやって計算してんだろ」
「あんなのデタラメに決まってるでしょ。 ただ単に伊都が眠そうな顔してたからだよ」
「え、そんな顔してたかな」
「白目向いてたよ」
「え、はず」
私はリュックからお弁当を取り出す。 あ、水筒持って来るの忘れてるじゃん……。
「でも、ちゃんと問題には答えられたし、完璧でしょ」
「それも蒼くんのお陰でしょ?」
「それは言わないでよー」
その時、本日日直当番の田中が「数学の課題ファイルとノート、放課後までにそこ出しといてー」と教室隅の本棚を指さして言った。 そんな田中の前の席には、蒼の姿。
蒼は田中や他の友達の方に身体を向けて、私たちと同じようにお昼ご飯を食べながら楽しそうに笑っている。 蒼は笑うとき、手を緩いグーの形で口元を隠す癖がある。
その笑い方は、なんだか笑うのを恥ずかしがっているみたいに見えて可愛くて、私の好きな蒼の仕草のひとつ。
「そんなに気になるなら、早く言いなよ」
蒼に視線を向ける私の顔を見ながら、香乃子はコーヒー牛乳でメロンパンを流し込む。
香乃子は唯一私が蒼のことを好きだと知っている人で、時々、こうやって私の背中を押すようなセリフを言う。
しかし、そんなセリフは私には全く効果はない。
「とうの昔に諦めてるからいいの」
私は視線をお弁当に戻して、のりたまのふりかけがかかったご飯を口に運んだ。
「なにそれ」
「言ったところで、困らせちゃうから」
いいの、私の気持ちなんて。 この気持ちを隠しているから、私はこれまで蒼の隣に居られたようなものなんだから。
「ふうん。 ……そうは思わないけど」
でも、蒼くんも鈍感の極みね、と言って香乃子はもう一口メロンパンをかじる。
確かに。 それには同感しかない。