「……蒼さぁ」
ほんの少しだけ、さっきよりも声を大きくする。
「ん?」
目線だけちらっとこちらに向ける。 スッとまっすぐ伸びたまつ毛が揺れる。
「たまには体育館行ってみたら? 垣根いるし」
「えっ、なんで」
ほのかに耳が赤くなる。 私はそれから視線を逸らして、自分のローファーを下駄箱へと仕舞う。
「バスケ、一緒にやってきたらいいじゃん。 蒼、中学までやってたんだし」
「いや……いいよ。 それより、俺は伊都に課題見せないと」
「え?」
今度は私が驚いた顔をする。 その顔を見てか、蒼はクスッと笑った。
「熊井の授業、2限目だよ。 早く教室行こ」
そう言って体育館とは反対の階段へと向かう蒼の背中を見て、蒼はやっぱり優し過ぎるんだと思った。
そして、私はどうしても、その優しさに甘えてしまう。
少しでも、蒼が私のことを気に掛けてくれただけで、私はこんなに胸が熱くなる。
あいつよりも私の名前を呼んでくれるだけで、泣きそうになってしまうくらい、私は嬉しい。
だから、これくらいは許してほしい。
私は目を擦って、蒼の後を追いかけた。