「佐藤、いる?」
垣根は教室内を見渡しながら言うと、田中も「どの佐藤だよ」と教室を見る。
「佐藤香乃子」
「香乃子なら、まだ来てないよ」
私は教室を見ずに答える。 そういえば、香乃子と垣根は同じ整備委員だ。
「え、まだ?」
「いつもチャイムと同時だからね」
「まじか。 じゃあ、これ渡しといて」
垣根は私に整備委員のプリントを1枚渡すと「じゃ」と言って隣のクラスに入って行った。
私はやっぱり蒼が気になって、つい見てしまう。
すると目が合って、蒼は赤くなった耳を手で摩って「びっくりした」と私にしか聞こえないくらいの声で呟いた。 その顔を見て、やはり垣根は私にとっては天敵だと思う。
なんて返事をして良いか分からず、私は曖昧に笑顔作る。 私だって心臓が飛び出るかと思うほどびっくりしたし、もし昨日の放課後の話でもされたらとヒヤヒヤしたけれど、蒼が嬉しそうなら……それで良い。
その時、チャイムがなって廊下の奥から階段を駆け上がってくる足跡がいくつか聞こえた。 多分、あの中に香乃子も混ざっているだろう。
私は「昼、パン奢ってね」と言いながら、垣根と同じように田中の肩をグーで突いて教室に入った。