「これくらいに見えたけど」
その手の陰からこちらを覗く蒼と目が合う。 案の定、私の心臓はうるさく鳴って、耳元がかあっと熱くなる。
「そ、そんなに高くないよ。 蒼の見間違い」
「う~ん、そっかあ」
ぱっと蒼の手が離れ、私は内心ほっとする。 どぎまぎしてしまったけれど、やっぱり蒼は1ミリもそんなこと気付いていない。
別に、それでいいんだけれど、少しくらい気付いてもいいんじゃないかと思ってしまう。
それにしても、蒼と出会ってから10年以上になるっていうのに、私もいつまで経っても慣れない。 いつまで経ってもドキドキする。
これでは身が持たないと思ったこともあったけれど、こればっかりはどうしようもない。
その時、自分のスマホの通知音が鳴った為見てみると、母親から『お弁当忘れてるよ~』とメッセージが届いていた。
「やばっ、お弁当忘れた!」
「えっ、寝坊したから?」
「……そう」
スマホの画面には、『お母さんが戴いちゃうね👍』と追加メッセージが入っている。 蒼は私のスマホを覗き込んで「伊都のお母さんっぽい」と笑う。
「それなら、田中に購買のパン奢ってもらいな」
「名案、天才じゃん」