「昨日、階段から落ちたって、ほんと?」

「ん? ……え、なんで知ってるの?」

「昨日帰る時に、垣根が教えてくれたんだ」

「えっ」

私は驚いて、次に続く言葉が咄嗟に出ない。 寝坊したせいでまだ頭が起きてないのかもしれない。

「大丈夫? 足、捻ったの?」

そう言って蒼は、屈んで私の足元を見る。 私は、「平気平気、全然歩けるよ」と言いながら昨日と同じように足首を回して見せると、蒼はほっとしたようで「良かった」と表情を綻ばせた。 

「垣根も心配してたんだよ。 あの後、教室に垣根行かなかった?」

「えっ……えーっと」

まだ寝ぼけている頭をフル回転させて、ここはどう答えるべきなのかを考える。

「来たけど、すぐ帰ってったよ」

「そうなんだ」

「うん」

寝起きの頭でも、昨日の放課後の全部を蒼に話すことはできないと思った。 

別に、話すようなここでもない。 けれど、蒼に嘘をついてしまった。

「寝坊したの、足が痛いからなのかと思ってさ」

「え、私が寝坊したことも知ってるの?」

「さっき将が言ってたよ。 でも、俺も寝坊したんだって言って、走って行ったけど」

「あいつ……」

「将、久々に見たけど背伸びたね。 伊都もう越されたんじゃない?」

「うそっ、それはない」

「そうかなあ」

そう言って蒼は、私の髪に触れそうなくらい近い位置に手をふわりと翳す。