その日の夜、私はなんだか気持ちが落ち着かなくて眠れないんじゃないかと不安に思ったのに、いつの間にかちゃんと寝落ちして、寝坊をした。

いつもなら急ぐのが嫌でちゃんと1時間前には起きて準備をするのに、目を覚ました時には家を出るまであと15分だった。 

「姉ちゃん、蒼くんもう待ってるよ」

私の部屋の半開きになった扉の隙間から弟の将が顔を覗かせる。 私は寝ぐせのついた髪にストレートアイロンを通しながら、鏡越しに映る将を見る。

「えっ、今日早くない!?」

「姉ちゃんが遅いんだよ。 俺行くね」

「もうそんな時間!?」

将は既にランドセルを背負っていて、私を置き去りにして母親に「行ってきまーす」と呑気に声を掛けている。

時計を見ると、あと5分しかない。 髪はもう諦めて手櫛で誤魔化し、制服に着替える。

「伊都〜、朝ごはんどうするの~」

「今日は大丈夫ー!」

母親に返事をしながら転びそうになりつつスカートを履いて、靴下の交互を間違えていないか確認してダーッと階段を降りて玄関の扉を開けた。

「蒼! おはよう!」

「伊都っ、おはよう」

蒼はこちらに振り返ると、どこか焦ったような不安そうな表情で言う。