資料室に到着して、垣根は戸の僅かな隙間に器用に足を引っかけて開ける。
「暗っ」
薄暗い室内に目を凝らす。 カーテンも閉め切られていて、室内を照らすのは廊下から注がれる光だけ。
「足元、気を付けろよ」
「うん」
電気のスイッチを探すのも面倒に思ったのは垣根も同じようで、部屋を暗くしたままノートを置けそうな場所を探す。
隣の進路指導室は綺麗に整頓されているのに、この資料室は異常に物で溢れかえっている。
多分だけど、資料だけじゃなくて熊井の私物も大量に混ざっているんじゃないか……。
「ここら辺でいいだろ」
「そうだね」
垣根はちょうど光で照らされていたテーブルの空いたスペースにノートを置く。 私も同じ場所にノートを置いて手を離した時、微かに垣根の手に触れてしまった。
「あ、ごめ、っわ!」
反射的に手を勢いよくノートから離してしまったせいで、積み上がっていたノートが床に落ちる。
「……ごめん」
足元は一層暗くて、しゃがんでもノートがどこに落ちてしまったのかよく見えない。
垣根は近くのカーテンを開けてくれて、私の辺りが照らされる。 垣根もしゃがんで、床に落ちたノートを拾い始める。
「いいよ、後は私が」
「二人でやった方が早いだろ」
そう言われて、それもそうだとも思いながら、自分があまりにも情けなく感じて私は黙ってノートを拾う。
今日は、垣根の目の前でドジを踏んでばかりだ。
いや、私がドジした所にたまたま垣根が居合わせただけと言うか……どちらにしても、やっぱり情けない。
ちょうど私と垣根の間に落ちていたノートを拾おうと手を伸ばすと、それは蒼の名前が書かれたノートで、私は思わず手を止める。
それに垣根も気が付いたようで、ほんの数秒だけ沈黙が揺れる。