「レア昆虫ベスト3……なにこれ」
「……今日のお題」
「ベスト3、書けんの?」
「書けないから困ってるの」
なんだか会話も面倒になってきて、私は椅子の背もたれに寄り掛かる。
「適当でいいじゃん、カブトムシとかさ」
「レアじゃないじゃん」
「真面目かよ」
垣根はそう言って少し笑う。 この顔が蒼の視線を奪っているのだと思うと、やっぱり憎たらしい。
「蒼と一緒に帰んなかったのかよ」
「……蒼は今日もバイト」
「ふうん」
垣根は特別興味がないように言って日誌をパラパラと捲り始めるので、私は「お題、考えるから」と垣根から日誌を取り上げる。
“一緒に”なんて、そんな当たり前のように言わないでほしい。
私にとって、蒼と一緒に居られる時間は有限で、絶対どこかで終わりが来る、貴重な時間。
……垣根は、蒼がどれだけ優しい人なのか知らないんだ。 今日の日誌のお題が“蒼の優しさを書き出せ”だったら、こんなに悩むことなく枠一杯に埋められるのに。
さっきだって、こんな不憫な状況な私の元にいち早く駆けつけてくれて、しかも手伝ってくれて……思い出すだけで、胸が温かくなるようなことを蒼は平気な顔でしてくれるんだ。
「ミヤマクワガタ、ゲンゴロウ、ミズカマキリって書いとけ。レアだから」
突然、垣根が呪文のようなことを言い出したので思わず驚いて「……な、なに……?」と聞き返す。
「虫の名前」
「え……もう1回言って」
垣根はついでに画像検索して私に見せてくる。 それを見る私の顔があまりにも酷い顔だったのか、垣根は楽しそうに笑う。
「教えてくれて、ありがとう……」
「おう」
なんだか貸しを作ってしまったような気がする。 でも、そんなことは言わない。