私の1日は、いつも緊張から始まる。
「蒼、おはよう」
「おはよう、伊都」
いつものように蒼は私の家の花壇のところに腰掛けていて、名前を呼ぶとこちらに振り返る。 目に掛かりそうな前髪が、やっぱり今日も邪魔そうだ。
蒼は立ち上がり、私はその隣に駆け寄って、近すぎない間隔を開けて歩き出して、私たちは徒歩15分でついてしまう高校へと向かう。
この時間は私にとってはものすごく貴重な時間なのに、15分なんてあっという間で昨日見たドラマの話や蒼のバイト先の話を聞いている内にすぐに学校に着いてしまう。
——ああ、今日も、もうすぐで終わっちゃう。
「今日、熊井の授業あるね」
ふいに思い出したように言う蒼に、私は思わずギョッとする。
「やば、課題やってない!」と思わず足を止めて言う私に「やば、終わったね」と蒼は得意げに笑う。
熊井はわたしたちのクラスの数学担当。 相当なひねくれ者で、課題を忘れた日には個別に別の課題を絶対に追加してくる。
「蒼終わってるの?! 昨日バイトだったのに?」
「昨日、古文の時に終わらせたんだよね」
「うわっ、ズルい」
正門を潜って、昇降口に向かう。 すると、その途中で蒼が「あ」と小さく呟いたので、私は見たくもないのに反射的に蒼が見ている方向に視線を向けてしまう。
……出た。 私の天敵。