重たいバッグ。
 これがあんな勢いで当たっちゃったんだから、きっと三条くんはすごく痛かっただろうな。
 翔太はあたしの攻撃には慣れているから、あんなの軽くかわして逆にあたしの頭をぺチリと叩いてくるくらいなんだけど、まさかその向こうに三条くんが居たなんて。
 なんでよけるのって翔太にいっぱい文句言いたいけど、でも、やっぱり投げたあたしが悪い。
 ぜんぶ、あたしのせいだ。
 お母さんに話したらきっと、「あーあ、可愛らしい女の子になるって言ってたのにね」って、すごくがっかりするだろうな。
 そんな感じでちょっと落ち込みながら職員室の先の角を曲がると、廊下のずっと向こうに靴箱が並んだ昇降口が見えた。
 吹抜けになった高い窓から淡い朱色がすーっと降りて、廊下に靴箱の影を長く長く落としている。
 とぼとぼと歩きながらふと視線を上げると、その靴箱の影の横で、スマホで話している背の高い男の子の姿が見えた。
 ハッとした。
 先に保健室を出て行った、三条くん。
 靴箱に寄り掛かって、真剣な顔で誰かと通話をしている。
 彼もハッとあたしに気がついて、面倒くさそうに顔をあさってのほうへ向けた。
 ちょっとだけ見えた彼の頬。
 さっきよりもっと赤くなって、思った以上に腫れがひどくなっていた。
 思わず駆け出す。
 すると彼はもっと面倒くさそうな顔になって、通話をやめたスマホをポケットに入れながら靴箱に手を入れた。
「あああ、あの、ちょっと待って!」
 動きを止めた彼。
 聞こえたのは、はぁーっと大きなため息。
 あたしは構わずそのまま彼のすぐそばまで駆け寄って、それからビシッと背筋を伸ばしてキヲツケをした。