三条くん、親には話さないって言ってたのに、お父さん知ってるじゃないっ。
 それから、三条くんはその通話をお巡りさんと代わった。
 ほんの数分。
「それでは、書類には社長さんの名前を書かせてもらいますから、よろしくお願いします」
 そう言って通話を終えると、お巡りさんは納得した様子で三条くんにスマホを返して、それからパッとあたしにニコニコ顔を向けた。
「じゃ、キミの身元は彼氏さんのお父さんが証明してくれたから、このお金、このまま持って帰っていいよ。受領書にサインして」
 もう、涙が出そう。
 もう一度、三条くんを見上げた。
 あ、まだ怖い顔してる。 
「お前、拾ってくれたやつに礼しないといけないだろ」
 あああ、そうだった。
 もう、あたし完全にダメ子になってるな。
「あの、お巡りさん、拾ってくれた人って――」
「お礼がしたいの? でもね、拾ってくれた人が、『名前も連絡先も教えなくていい』って手続きを希望したから、僕らは教えてあげられないんだ。ごめんね」
 そうなんだ。
 つい、また三条くんを見上げた。
「いちいち俺の顔を見るな」
「ごっ、ごめんなさい」
 それを見て、ちょっと苦笑いしたお巡りさん。
「おいおい、ケンカしないで。まぁ、いつかキミが拾う側になったときに、この拾ってくれた人と同じ優しい気持ちで届け出をしてくれれば、それがその人への恩返しになるからね」
「はいっ!」
 思わず立ち上がる。
 あたしは封筒を胸に抱き寄せて、それから深々と頭を下げた。
 交番を出て見上げると、もう空はキレイな朱色。
「あああ、あの、これ」
 あたしは封筒から納品書を引き抜いて、お金を封筒ごと三条くんに差し出した。