歌を歌うときだけは、自分に嘘をつきたくない。
 そう思っていたのに、合唱部ではずっと嘘をつきっぱなしだったんだけどね。
 バーンと、長く伸びたピアノの和音。
 伴奏を終えた先生が、あたしたちにニコニコ顔を向けた。
「はい。よくできました。宝満さん、特に声がよく出てましたね。みんな拍手」 
 パラパラと愛想笑いのような拍手を受けて、小さく礼をして教壇を下りる。
 なんか、ひとりだけ本気モードでやってしまった。ちょっと恥ずかしい。
 うわ、三条くんが睨んでる。
 なに?
 あたし、なにかした?
 ハッと見ると、小夜ちゃんもすごい顔であたしを睨んでる。
 なんだかよく分からないけど、これはあとでなにか言われる、ザ・小夜ファイヤーの予感。
 そういえば、三条くんって、とっても歌が上手なキッズ歌手だったんだよね。
 どんな声で歌うんだろう。
 普段の声は、澄んでいるけどとっても落ち着いてて、ちょっと大人っぽい感じ。
 でもたぶん、歌になったらすごく艶があって、素敵な――、いやいやいや、あたしはそんなのに興味はないのっ。
 しかし……、まともに顔が見られない。
 ううう、前の人の陰に隠れたいのに、席の段差がけっこうあるからムリみたい。
 あ、次は三条くんたちの番。
 自己紹介が始まる。
「三条聖弥。セイントクラリス学園中等部出身。夢は……」
 なんだろう。三条くんの夢って。
 きっと、『ガオカ』の人らしい、お金持ちならではの夢なんだろうな。
 そう思いながら視線を向けると、突然、彼があたしを見た。
 目が合う。
 えっ?
「夢は……、自分の実力で、もう一度ステージに立つこと」
 教室がザワッとなる。