もしかしてっ。
 見ると、玄関扉のすぐ横のお風呂場の高窓が開いている。
 思わず、その窓に首を突っ込んだ。
 まさか、まさか、まさか!
 次の瞬間、突然聞こえた、その度肝を抜かれる朝鳴きの声。
 コケコッコーーッ!
 この声っ! やっぱり!
 我が家のリーダー雄鶏、『ベートーベン』がこの窓から入り込んだんだ!
 あたしは思いきり伸び上がってその高窓から身を乗り入れると、それから湯舟の縁に手を掛けて体を滑り込ませた。
 うわっ、バランスがっ!
 ドスンっ! と重たい音。
 ううう、痛ぁい。
 いや、痛がってる場合じゃない。
 ハッと起き上がってお風呂場から這い出ると、先の薄暗い部屋の中に、窓から差し込む淡い朝日を受けてよちよちと歩くニワトリが見えた。
「こらっ、なにしてんのっ!」
 思わず声を上げて、そのふわふわを目掛けて薄暗い部屋へ飛び込む。
 ガチャン!
 突然、足になにかが触れた。
 鈍い音。
 ぐるりと回る部屋。
「ああっ!」 
 無意識に声が出る。
 そしてその声に続いて、なにか陶器のような物が弾け飛んだ音がした。
 カシャーン!
 コントロールを失って、まるで勢いよくプールに飛び込むみたいに空間を泳ぐあたし。
 すると突然、両手を伸ばしたその先の暗がりに、キラリとふたつの目が光った。
 ひいいいいいっ!
 ゾワッと背筋に冷気を感じて、思いきり目をつむる。
 次の瞬間。
 ゴツッ!
 頭蓋骨に重たい衝撃があって、ひと呼吸遅れて激痛が走った。
 痛ぁぁぁい!
 でも声が出ない。
 直後に柔らかなものに体が沈み込んで、耳のそばで、「うう……」と押し殺した唸りが聞こえた。
 怖い怖い怖い!