いつもなら、新しいお隣さんの度肝を抜くすっごい声が鳴り響く時間なのに。
 あれ……?
 なんだろう、この砂を踏む音は……。
 縁側のサッシの向こう、カーテンに隠れて見えない庭のほうから聞こえる、数羽のニワトリたちがぞろぞろと歩き回って砂を踏む音。
 ハッとして飛び起きた。
 思わず縁側へ駆け寄って、ガバッとカーテンを開ける。
 えっ? 
 なんでみんな小屋から出てるのっ?
 ちゃんとカギを掛けたはずなのに、小屋の扉が開いていて、ニワトリがぜんぶ庭へ出てしまっている。
 まだ薄暗い空の下、うっすらと見える庭でウロウロと歩き回っているニワトリたちの姿。
 ちょっと、どうしたっていうのっ?
 思わず、縁側の引き戸を開けて、スウェット姿のままサンダルを引っ掛けた。
 駆け寄ってみると、小屋の中には一羽も居ない。 
 えっと、庭に居るのは……、に、し、ろっ、ぱ、と、じゅうに、じゅうよん……。
 うわ、一羽足りない。
 さらによく見ると、どうも居なくなっているのは、最年長のリーダー雄鶏、『ベートーベン』。
 彼は、温厚で皆からの信頼も厚い、まさにリーダーにふさわしい人格者だけど、ごく稀に若き日の冒険心に火が着いて、誰にも告げずに孤独な冒険へと旅立ってしまうことがある。
 この前は、裏の上のハウスの向こうまで遠征していて、なぜかひっくり返った大籠の中に閉じ込められているところを晃が率いる捜索隊に発見された。
 また、ハウスのほうへ行ったのかな。
 いつも、けたたましい朝鳴きをとどろかせる『ベートーベン』の声が聞こえていないということは、かなり遠くへ行ってしまったってことだ。
 これはマズい。