『俺たちは高校を卒業しても地元に残ったけど、ノブちゃんはすぐに都会へ出て行ってしまった。よほどこの田舎が嫌だったんだろう。だから、その後の彼女のことはまったく知らなかったんだよ』
『三条社長が、少しだけ彼女のことを教えてくれた』
『彼女、三条社長とは東京の職場で出会ったみたいだな。彼は隣の政令市に本社がある「三条建設」の御曹司で、当時は次期社長としての武者修行中だったそうだ』
『そこでふたりは結婚して、三条社長が社長職を継ぐタイミングで地元へ戻って来て』
『ノブちゃんは、本当は戻って来たくなかったみたいだな。でも、三条社長はどうしても社長を継がなきゃいけない』
『そこで三条社長は、すでに一部の計画が始まっていた住宅地開発計画を拡大して、ノブちゃんが気に入る街を作って、そこに新居を構えるってノブちゃんに約束したらしいんだ』
『そして、そのときノブちゃんが言った願いは、この街を東京の高級住宅街のような上品で華やかな街にして、自分の過去をぜんぶ消し去ってほしいってことだった』
『それが、この街で突然起こった、「星降が丘」の造成計画だったんだ。町議会まで巻き込んで、三条建設がこの街をまったく違う街に変えようとしたんだ』
『でも、そうはならなかった。宝満農園が頑張ったからな』
『それから、ノブちゃんの不完全燃焼は、ひとり息子の聖弥くんへと向いていったってわけだ』
『聖弥くんをスターにして、ステージに立つ彼の隣にその母親として立つ……、それが彼女の夢になっていったらしい』
『それがエスカレートして、彼女、ちょっと病んでしまったみたいで。それがいろんなトラブルを生んで……』