そうなんだ。
 お母さんが言ってた、『土地を買いたいって言ってる業者』って、三条建設のことだったんだ。
 でも、『星降が丘』って、聖弥くんのお母さんが願ったから作られたの?
 どういうこと?
「そうだったんですね……。あの、経営はちょっと難しい状態ですけど、来年は自分でやるハウスを減らして、近くの農家のひとたちにハウスを貸して、賃料を利子の返済にあてて……、そうやって少しずつ立て直していこうと思ってます」
「ふぅん。意外としっかりしてるのね。でも無理ね。そんなに簡単にハウスを借りたいという人が見つかると思っているの? 現実を見ないとダメよ? お嬢さん」
「絶対、どうにかします」
「ふんっ、夢みたいなこと言ってないで現実を見なさいっ! あなたのその夢物語に聖弥は惑わされているのっ! もう、いい加減にしてっ! 聖弥っ、帰るわよっ?」
 あたしに怒鳴ったあと、聖弥くんのほうへ一歩踏み出したお母さん。
 その足がガツンとなにかに当たった。
「痛っ!」
 ゴロッとひっくり返ったバケツ。
 お父さんのイチゴが土と一緒に土間に散らばる。
「もうっ! なんなのっ!」
 次の瞬間、聖弥くんのお母さんの足が、お父さんのイチゴを思いきり踏みつけた。
「あっ!」
 さらにドンと音がして、蹴られたバケツがあたしの足をかすめて台所の入口まで転がる。
「姉ちゃんっ!」
 あたしに駆け寄る晃。
「聖弥っ、早く来るのっ!」
 お母さんが土間から背伸びをして、聖弥くんに手を伸ばしている。
 その足元には、踏みつけられてちぎれた、お父さんのイチゴの株……。
「なにしやがんだっ! そのイチゴはっ!」
 聖弥くんが、お母さんに怒鳴った。