じわっと背中に汗をかきながら坂を上る。
 丘の上へと続く『ガオカ』のメインストリートの両側は、ずっと向こうまでお菓子みたいなお家が並んでいる。
 たぶん、雪が降ったらお菓子の家を乗せたクリスマスケーキみたいになるんじゃないかな。
 この『星降が丘南』のメインストリートは、南の丘の頂上から下ってくると、北側にある我が家の前の道に丁字にぶつかって、そこで突然終わっている。
 本当はそこからさらに我が家を通り越して、北の丘へと上っていって、そこが『星降が丘北』のメインストリートになるはずだった。
 でも、我が宝満農園が立ち退かなかったせいで、この北の丘はいまも未開発のまま。
「ここ……かな? うわ、でっかい」
 大理石風の門柱に埋め込まれた、金属製の表札。
 なに? この、草のつるみたいなくねくねした文字。
 たぶん『SAGITAGAWA』って書いてあると思うんだけど、あたしには読めない。
 とっても立派なレッドロビンの垣根が、目が覚めるような赤茶色の葉っぱをツヤツヤさせて、向こうの角までずーっと長く続いている。
「ううう、緊張する」 
 こんなお金持ちのお家なんて訪ねたことないし、どんな格好して行こうかなんてちょっと考えたけど、三条くんに聞いたら、【いつもの格好、可愛くていいと思うぞ?】って、思いきりガリガリと神経を削る回答。
 いつもの格好って、制服か作業用のオーバーオールのことでしょ?
 そんな格好で行けないよぅ。
 まぁ、結局、いろいろ考えた割には大したことない、普通のスカート姿になったんだけど。
 小夜ちゃんちの住所は、三条くんがメッセージで教えてくれた。